関連リンク

2025年5月17日土曜日

 

牧師の日記から(520)「最近読んだ本の紹介」

 高妍『隙間①②③』(KADOKAWA)台湾の若手漫画家の作品。村上春樹の『猫を捨てる』の印象的装画で、この作家を知った。台湾の美大生が、沖縄の美術大学に留学して来た日常を淡々と描いているのだが、繊細なタッチと主人公の女性の微妙な心の揺らぎがマッチしていて、独特の世界が拡がる。それに加えて現代台湾の政治状況が濃厚に反映される。228民変や国民党の白色テロ、それに抗する台湾独立運動の歴史が、現在のMainland Chainaの政治的軍事的圧力と重ねて紹介されている。現在の日本のマンガでこのようにリアルな政治的な問題が取り上げられることは稀なので、新鮮に感じさせられた。

沖浦和光『天皇と賎民の国』(河出文庫)桃山学院大学の学長も務めた著者が長年取り組んできた被差別部落の歴史と天皇制の関わりを厳しく抉り出している。改めて教えられたのは、戦後間もない時期にマスコミや出版界で話題になった江上波夫の『騎馬民族襲来説』が、戦前の神権天皇制を批判する文脈で受け入れられたという指摘。つまり天皇家は万世一系の神話に由来するのではなく、朝鮮半島から襲来した騎馬民族の末裔とされ、そのカリスマ性を相対化する意味合いがあったというのだ。

沖浦和光『宣教師ザビエルと被差別民』(筑摩書房)以前この欄で紹介したことのある本書を本棚から探し出して再読した。以前読んだときは、自分に関心のある部分を拾い読みしただけだが、今回は全体を精読した。著者はインドやインドネシア、マカオ、そして日本におけるイエズス会の宣教の足跡を丁寧に追い、ザビエルたちの伝道の姿勢とその実際を検証する。それによれば、彼らは特に賤視された被差別民、またハンセン病者に対する宣教と治療に注力していたという。当時の仏教界がこれらの人々を前世の因縁として救済の対象から排除したのに対し、宣教師たちの具体的な救済活動が注目される。殉教者たちの記録の中に「癩者」の存在が少なくないという事実を初めて教えられた。著者は、戦国時代末期に切支丹が急速に増加したのは、西洋との交易を目的とする切支丹大名たちの影響よりも、そのような被差別民やハンセン病者に対する宣教師たちの姿勢が民衆に受け入れられたからだと評価している。(戒能信生)

0 件のコメント:

コメントを投稿