2016年1月9日土曜日

牧師の日記から(40「(続)最近読んだ本から
武井弘一『江戸日本の転換点 水田の激増は何をもたらしたか』(NHKブックス)加賀藩の農政史を軸に、江戸期の水田開発の歴史を概観した入門書。当時の篤農家が残した農書や絵画を手掛かりに、水稲耕作の実態と新田開発の実情を描き出しています。新規開拓によって江戸期の人口は飛躍的に増加しますが、その内部矛盾に鋭く迫る意欲作です。持続可能なエコ社会と思われてきた米作中心の生活が、江戸末期には様々な点で限界に達しており、その難問は現在の農政の課題として続いていることを実証的に紹介しています。
森本あんり『反知性主義 アメリカが産んだ「熱病」の正体』(新潮選書)著者はICUの副学長で旧知の神学研究者です。この国ではキリスト教史というとヨーロッパを中心に取り上げられ、アメリカ・キリスト教史はほとんど顧みられません。しかし日本の教会に決定的な影響を与えたのはアメリカの教会です。本書は、アメリカ・キリスト教史としても、またアメリカ思想史としてもきわめて優れた内容をもっています。特に「反知性主義」が、まさにアメリカのキリスト教の特質から生まれた経緯を、大衆伝道者たちの姿を通して興味深く紹介しています。
加藤典洋『戦後入門』(ちくま新書)文芸評論家としても知られる著者は、これまでも『アメリカの影』『敗戦後論』などによって、この国の戦後史解釈に常に挑戦的な議論を投げかけて来ました。私はこの著者が書いたものにほとんど目を通して来た愛読者の一人ですが、しかし本書には強い違和を感じました。それは、第二次世界大戦についての理解が、あまりにも異なるからです。連合国と枢軸国のいずれにも大義はなかったという議論はあり得るとしても、ドイツのナチス政権や戦前のこの国の天皇制絶対主義・軍事独裁政権を容認するような観点からは、やはり未来への建設的な議論は生まれないと思います。新書としては異例の600頁を越える力作で、教えられるところも多かったのですが、最近目立ってきた新自由主義論者の論調とどうしても重なってしまいます。

あずまきよひこ『よつばと!13』(電撃コミックス)これは、5歳の女の子を主人公とするマンガです。羊子に勧められて愛読書の一つになりました。もう13巻目ですが、「よつば」という名前の幼児の眼にこの世界がどのように見えているかが見事に描かれます。子どもの無垢をこれほど生き生きと印象的に描くことは、文章では困難で、そこにマンガの新しい可能性があると思わされました。私は不眠症気味で就寝する際に何かを読みながらでないと寝られません。しかし小説などを読み始めると、かえって目が冴えて眠られなくなることがあります。そういう時は『よつばと!』の出番です。ですから枕元にはこの漫画が全巻並んでいるのです。(この項続く 戒能信生)

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