2016年3月20日日曜日

牧師の日記から(50「最近読んだ本から」
スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチ『チェルノブイリの祈り』『ボタン穴から見た戦争』『戦争は女の顔をしていない』(いずれも岩波現代文庫)著者は昨年のノーベル文学賞の受賞者。村上春樹さんの受賞が期待されていましたが、彼女が受賞し、おかげでこの作家を知りました。一種のドキュメンタリーの手法で、聞き書きが中心です。対ドイツ戦争や共産主義政権下の社会、そして原子力発電所の爆発事故などが、徹底して下級兵士や女性たち、さらに子どもの視線から独特の文体で描き出されています。『世界』の3月号に、ノーベル賞受賞記念講演が掲載されていますが、素晴らしい内容です。
ヘニング・マンケル『霜の降りる前に』(創元社推理文庫)スウェーデンの警察小説です。実は、1980年代に翻訳されたマイ・シューヴァル、ペール・ヴァール夫妻の共作『刑事マルティン・ベック・シリーズ』で、私は初めて北欧の現代小説を読みました。このシリーズは、1960年代のスウェーデン社会の変遷を、犯罪とそれを捜査する刑事たちの眼から描いた連作で、以降、スウェーデンの推理小説のレベルは格段の成熟を見せることになります。マンケルの刑事ヴァランダー・シリーズも、地方都市の警察で次々に起こる難事件を通して、この国の世相を鋭くえぐり出します。著者は昨年死去したそうで、愛読して来た作家が次々に亡くなって行くのは寂しい限りです。
倉本聡『昭和からの遺言』(双葉社)皆さんご存知のテレビドラマ『北の国から』の原作者・倉本さんは、私の恩師でもある新約聖書学者山谷省吾先生の甥にあたり、小学生時代ご家族の属した信濃町教会の日曜学校の生徒でした。クリスマスに、一年間日曜学校によく出席した生徒に精勤賞が渡されるのはキリスト教的ではないと批判して、以降教会から遠ざかったという逸話が残っています。その倉本さんも80歳になり、自分の生きて来た時代を振り返りながら、独特の文体で綴ったエッセーで、一気に読めます。
加藤陽子『シリーズ日本近現代⑤満州事変から日中戦争へ』(岩波新書)『それでも、日本人は戦争を選んだ』の著者である加藤さんは、政治的イデオロギーを極力排して、戦争へと至った経過を分かりやすく読み解いています。満州事変から日支事変は、すべて宣戦布告なき戦争で、だから「事変」と呼ばれていた経緯と事情を、この本で学びました。

井坂幸太郎『陽気なギャングは三つ数えろ』(祥伝社)1971年生まれのこの作家の小説は、どういうわけか私の気分にあってよく読みます。自分より若い世代の作家の小説がなかなか読めなくなった中で、不思議な例外の一人です。独特のユーモアのせいなのか、それともそのよどみのない文体のせいなのか分かりませんが、文庫や新書になると買い求めてしまいます。小説を読む楽しみを感じさせてくれます。(戒能信生)

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