2017年12月16日土曜日


牧師の日記から(140)「最近読んだ本の紹介」

谷川俊太郎・尾崎真理子『詩人なんて呼ばれて』(新潮社)今や「国民的詩人」と呼ばれる谷川俊太郎の生涯の歩みを詳細にインタビューしたもの。それに谷川の代表的な詩20篇が挟まれ、さらに編集者の解説を加えて構成されている。これ一冊で、谷川俊太郎のすべてが分かるという仕掛け。尾崎真理子さんは、先頃紹介した『大江健三郎 作家自身を語る』の聞き書きをした編集者で、谷川のプライベートな生活にまで踏み込んで徹底して聞いている。谷川徹三の独り息子として育ったこと、大学に行かなかった理由、そして岸田襟子、佐野洋子の二人の妻との結婚生活の実際と破綻に到るまで、よくもまあここまでと驚くほど。しかしそこまで実生活をさらけ出しても、谷川俊太郎の詩は依然として輝いている。

山田昌弘『悩める日本人 『人生案内』に見る現代社会の姿』(ディスカヴァー携書)家族社会学が専門のこの研究者については、20年ほど前博報堂のプランナーから聞かされていた。広告宣伝の世界の人は耳が早いというか、若い研究者の動向まで追っているのかと感心したものだった。その後著者は『パラサイト・シングル』や『希望格差社会』などの造語で知られるようになったが、現代社会の実相を家族の生態の変遷から読み解くその視点から教えられて来た。現在『読売新聞』の人生相談欄「人生案内」を担当しており、そこから見えてくる現代社会の実情を柔らかく報告している。同性愛などの性の多様化の問題、今や中高年になりつつあるパラサイト・シングルの実態、夢を抱けなくなっている若者たちの心情までが、「人生案内」欄から透けて見えてくる。大正期に、新渡戸稲造が婦人雑誌の「人生相談」の欄を長く担当していたことを想い出した。このような社会のリアルな現実に触れないで、福音宣教はできないのではないだろうか。

清水真砂子『「ゲド戦記」の世界』(岩波ブックレット)ル・グウィンの『ゲド戦記』の翻訳者の講演録で、10年ほど前に発行されたもの。羊子に薦められて読んだ。『ゲド戦記』は子どもたちと繰り返し読んできたが、その細部への訳者の細やかな視線に感銘を受けた。いつか時間的余裕のある時、もう一度『ゲド戦記』をゆっくり心を込めて読み直したいと思った。

ガブリエル・セヴィン『書店主フィクリーのものがたり』(早川書房)島に一軒しかない書店に、ある日赤ん坊が置き去りにされていた。偏屈な書店主はその女の子を引き取って育て始める。現代アメリカのファンタジーとも言える小説で、旅行中新幹線の中で気楽に読んだ。

磯田道史『日本史の内幕 戦国女性の素顔から幕末近代の謎まで』(中公新書)『武士の家計簿』が映画化されてからテレビなどでもすっかりお馴染みになった著者の古文書解読にまつわるエッセー集。ただ古文書が読めるというだけではなく、それを現代の様々な問題と結びつけるセンスがこの著者の真骨頂のようだ。私自身もキリスト教会の断片的な資料から教会の課題を読み解くことを目指しているので、共感しながら読まされた。(戒能信生)

0 件のコメント:

コメントを投稿