2025年5月10日土曜日

 

牧師の日記から(519)「最近読んだ本の紹介」

 松本雅弘『自分自身と群れ全体とに気を配りながら』(新教出版社)カンバーランド長老教会高座教会の松本牧師の説教集。編集を担当した鈴木健次さんから送られて眼を通した。三つの章に挟まれた松本牧師と鈴木さんとの対談が秀逸。つまり説教者に対して、聴く信徒の側からの問いや注文が挟まれているのだ。高座教会は礼拝出席者が200名以上ある大教会で、数年前70年誌が刊行された際、依頼されて書評を書いたことがある。このように大きな教会での説教は容易ではない。どこに焦点を合わせるかが難しいのだ。「自分自身と群れ全体とに気を配りながら」という表題が、この説教集の性格を示している。

 踊共二『非暴力主義の誕生 武器を捨てた宗教改革』(岩波新書)宗教改革左派として生まれた再洗礼派は、プロテスタント主流派とカトリックの双方から迫害された。その中で生まれた非暴力とノンレジスタンス(無抵抗)の系譜を現在に至るまで紹介してくれる。特にアメリカで現在も独特の共同体として存続するアーミッシュやメノナイトへと至る流れを概観してくれて参考になる。最後の章で、この国の絶対平和主義の歴史にも短く触れている。すなわち最初の兵役拒否者矢部喜好、明石順三を初めとする灯台社の人々、そして第二次大戦下に兵役拒否をしたイシガオサムにも言及している。しかし驚いたのはロシア正教の流れを汲むトルストイアン北御門二郎の存在で、こういう兵役拒否者がいたことを本書で初めて知らされた。

 鈴木俊貴『僕には鳥の言葉がわかる』(小学館)1983年生れの若い動物学研究者が、シジュウカラの生態を徹底的に観察して、その鳴き声に一定の意味と法則があることを見出し、「鳥にも言葉がある」として学会に発表する。それが評価されてネイチャー誌やナショナル・ジオグラフィー誌に掲載され、数々の国際賞を受賞して、現在では東京大学に動物言語学研究室を開設するに至る物語。比較的身近な野鳥シジュウカラを取り上げ、しかもその観察方法や実験手法が素人に毛が生えたようなものでありながら、アリストテレス以来の「言語は人間だけのもの」という常識に果敢に挑戦しそれを乗り越えていく。何より分かりやすい筆致で書かれていることに好感がもてた。(戒能信生)

0 件のコメント:

コメントを投稿