2025年9月20日土曜日

 

牧師の日記から(534)「最近読んだ本の紹介」

 鶴見俊輔『戦後思想三話』(ミネルヴァ書房)このところ視力が落ちてきたせいで小さい字の文庫本が読みにくい。全く読めないわけではないが、長時間読んでいると疲れてしまう。そこで、本箱から既に読んだことのある比較的大きな活字の書物を引っ張り出して再読することになる。鶴見俊輔のこの本もその一冊。1980年代に日高六郎さん(懐かしい!)が続けていたセミナーの後を受けて、鶴見さんが自由に戦後思想について語っている。この本の中で先ず取り上げられているのが吉田満。『戦艦大和の最後』の著者として知られるが、戦後は日本銀行の役員として働き、『日本銀行史』を執筆したことで知られる。江藤淳などと比較して、『戦中派の死生観』に示された吉田満の戦争責任についての姿勢を鶴見さんは最大限評価しているのだ。ただそこで吉田満がクリスチャンであることに一言も触れられていない。吉田は、戦後すぐの時期、カトリック教会で受洗しているが、その後、日本基督教団西片町教会に転会し、鈴木正久牧師の薫陶を受けている。教団議長として『戦争責任告白』を発表した鈴木牧師を、吉田さんは教会員として一貫して支え続け、『鈴木正久著作集』の編集にも携わっている。

それから本書の最後に紹介されているのが大島孝一さん。「毎月一回東京へ出ちゃ清水谷公園からのデモをやっていた。私のすぐそばでわりあい年配の人でいつも歩いている人がいるんですよ。プラカードを持って。その人と話をして、話があうんでおもしろいんですよ。別れるとき名刺をくれたんだ。名刺を見たら『女子学院院長』と書いてあった。女子学院の院長が、全くプライベートに一人の市民として毎月来てはプラカードを持って歩いているんです。びっくりしたんですよ。……この人はとにかく公私ともにそういうふうに生きてきた。私はこういう人が戦後出てきて今もいるということは、重要なことだと思う。日銀に吉田満がいたし、ここにはこういう人がいる。」

この大島孝一さんも、信濃町教会の篤実な教会員で、私自身も大変お世話になった人。鶴見さんが戦後日本のあるべき姿の体現者として評価する二人が、日本基督教団の教会員であることを嬉しく思ったので紹介する。(戒能信生)

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