牧師の日記から(542)「最近読んだ本の紹介」
川上未映子『きみは赤ちゃん』(文春文庫)著者は、芥川賞を初め多数の文芸賞を軒並み受賞している若い小説家。村上春樹との共著『みみずくは黄昏に飛びたつ』を読んだだけだが、その鋭いセンスと感覚に驚かされた。その作家が35歳で初めて出産し、その経験の一部始終をリアルタイムで報告したもの。出産に関わるすべてのことが当然のことながら女性の側からありのままに描かれる。その根底に貫かれるのは、夫(あるいはすべての男性)の無知と無理解に対する痛烈な非難と怒り。読んでいて、居たたまれなくなるほど。直子さんが3人の子どもを出産してくれたが、夫であり父親である私は、ただ側にいただけで、産む性の側の痛みや辛さのことを全く理解していなかったことを思い知らされる。つわり、マタニティーブルー、分娩の壮絶な苦しみ、産後クライシス、そして育児……。例えば、夜泣きする新生児に3時間おきに母乳を与えながら、傍らで鼾をかいて寝ている夫に瞬間的に殺意を覚えるくだりなどは、実に身につまされた。今さら遅いが、改めて直子さんに感謝する。
又吉直樹・ヨシタケシンスケ『本でした』(ポプラ社)お笑い芸人・又吉直樹が芥川賞を受賞したので話題になったが、その小説は読んでいない。しかし絵本作家として国際的に活躍しているヨシタケシンスケとの共著だというので目を通した。ある街に住み付いた若者二人が「どんなものでも本に戻します」という不思議な看板を出す。無くした本、忘れた本、壊れた本の表題でも、その一部でも判れば復元するというのだ。町の住民が面白がって、次々に注文したものが、楽しいイラスト付きで紹介される。子どもも読めるし、大人でもいろいろ考えさせられる。最後に、二人の若者のインチキがバレるが、それ以降、その街からたくさんの作家が生まれたというファンタジー。
森本あんり『キリスト教でたどるアメリカ史』(角川ソフィア文庫)アメリカ史に関する書籍は多数あるが、キリスト教との関連で取り上げたものは少ない。著者の森本あんりさんが、ピルグリムの渡航から始めて、大覚醒、独立戦争、南北戦争、大恐慌、第二次大戦後の膨張するアメリカ、現在のトランプ現象までをキリスト教を軸にして解説してくれる。(戒能信生)