2015年9月26日土曜日

牧師の日記から㉕「最近読んだ本から」
瀬沼拓郎『アイヌ学入門』(講談社現代新書)アイヌ学の最近の知見を分かりやすく紹介してくれる。特に沈黙交易や小人伝説の由来については初めて教えられることがいくつもあった。アイヌ語の挨拶の言葉、「イランカラプテ」のもともとの意味は「あなたの心にそっと触れさせてください」という意味だと知り、その繊細な表現に感銘を受けた。
小熊英二『アウトテイクス』(慶應義塾大学出版会)アジアに関わる近代日本の思想家たちの言説を取り上げて論じた評論集。岡倉天心、新渡戸稲造、矢内原忠雄、柳田国男、丸山眞男、清水幾太郎といった人々のアジア観を批判的に分析していて興味深い。この著者の書いたものは大部な本が多く、読み切るのに往生するが、それだけの魅力と説得力がある。
村上春樹『職業としての小説家』(スイッチ・パブリッシング)処女作の頃からベストセラー作家としての現代に至るまでの小説家としての歩みが自ら披瀝されている話題の本。村上春樹の小説はほとんどすべて目を通して来た。しかし一部の評論家(加藤典洋等)たちのような深読みの解釈はしないで、読む愉しさに徹してきたように思う。それがこの作家の読み方にふさわしい。
高野秀行・清水克行『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(集英社インターナショナル)以前『喧嘩両成敗の誕生』でこの国の中世史研究に新しい視野を切り開いた清水克行と、アジアやアフリカの辺境を探報して来たノンフィクション作家高野秀行との異色の対談集。辺境の部族社会に今も生きている慣習を補助線として室町時代の人々の暮らしに焦点を当てると、従来の固定化念が壊されていくのが興味深かった。
安部龍太郎『等伯 上下』((文春文庫)戦国時代末期に北陸や京都を中心に活躍した絵師長谷川等伯の生涯を小説化した直木賞作品。等伯の絵が好きで、全画集も持っているが、それぞれ作品の歴史的背景が小説として提示されていて、画集を取り出して眺めながら楽しく読んだ。特に等伯の肖像画の解釈が面白かった。
水木しげる・荒俣宏『戦争と読書』(角川新書)マンガ『ゲゲゲの鬼太郎』の作者として知られる水木しげるの、出征前の日記を手掛かりに、戦時期を生きた特異な若者の心の世界を追っている。皇民化教育とか皇国史観に全く影響されなかった水木しげるの精神の在りように驚かされた。

加藤聖文『大日本帝国の崩壊 東アジアの1945年』(中公新書)1945815日前後の日本の植民地支配の実態を資料から紹介している。台湾で、朝鮮で、満州で、特に815日以降何が起こったかを丁寧に追いながら、大日本帝国崩壊の実態を暴いている。(戒能信生)

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