2016年5月30日月曜日

牧師の日記から(61)「最近読んだ本から」
ウンベルト・エーコ『プラハの墓地』(東京創元社)昨年亡くなったエーコの遺作。19世紀のヨーロッパを舞台に、イタリア独立戦争、パリ・コンミューン、ドレフェス事件などの背後に、一人の反ユダヤ主義の人物を想定し、各国の秘密情報局と関わりを持ちながら暗躍するという当時の通俗小説の手法を用いた小説。この主人公が『シオン賢者の議定書』を偽作したという奇想天外な快作。このような仕方で、アンチ・セミティズムが蔓延して行った背景を、エーコなりの仕方で解釈している。現在ヨーロッパに拡がっている反イスラム主義の風潮と重ねてみると、著者の意図を伺うことができる。
吉野孝雄『外骨戦中日記』(河出書房新社)倚人ジャーナリスト宮武外骨の戦中日記を読み解き、ただ生活者として食料の買い出しと釣りに明け暮れる戦時下の日常を通して、時局におもねらない姿勢を取り上げる。著者は外骨の甥で、清沢洌の『暗黒日記』や永井荷風の『断腸亭日乗』、高見順、渡辺一夫等の戦中日記と対比しつつ、外骨の反骨を描き出しているところが面白い。
こうの史代『あのとき、この本』(平凡社)福音館書店の『こどものとも』に連載されたもので、著名な作家や芸術家たちが子どもの頃どんな絵本を読んで来たかのエセーに、こうの史代が四コマ漫画を付けたもの。一読して、自分の読書体験に、ある時期の絵本が欠落していることに気づかされた。つまり幼児の頃はけっこう絵本に親しんでいたのだが、1950年代半ば以降の創作絵本にはほとんど触れていないのだ。この時期の長新太や松谷みよ子、五味太郎などの作品を読んでいないことが判明した。1980年台以降、私の子育ての時期になると、私も知っている絵本が登場するのだ。
佐藤量『戦後日中関係と同窓会』(彩流社)戦前、主に大連の日本人学校を卒業した中国人と日本人の、その後の同窓会を介しての交流史に注目した博士論文。そう言えば、岡崎大祐さんや竹森靜子さんの聞き書きした際、中国人の同級生の話はほとんど出て来なかった。大連日本基督教会の月報『霊光』に中国人信徒が登場しないのは何故かを考えさせられていたので、関心をもって読んだ。

島田裕巳『なぜ宗教家は日本でいちばん長寿なのか』(KADOKAWA)宗教学者の著者は、主に仏教僧たちの長命のデータを取り上げ、その理由をあれこれ詮索している。ところで、二年に一度の教団総会で、その間に逝去した牧師たちの追悼礼拝が行われる。逝去牧師たちの享年が記された資料が配布されると、後ろの方の議席で決まって信徒議員たちが電卓を取り出し、その平均の計算を始める。その結果、一般の平均寿命よりも長命であることが判明する。ある信徒議員の率直な感想。「あれだけ好きなように生き、好きなことを遠慮なく毎週話していれば、そりゃ長命にもなるよ!」(戒能信生)

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