2017年11月18日土曜日

牧師の日記から(136)「最近読んだ本の紹介」
中島岳志『親鸞と日本主義』(新潮選書)『中村屋のボース』で大佛次郎論壇賞を受賞した若き政治思想研究者が、今度は親鸞思想と国学の近接を取り上げている。戦時下の親鸞主義者たちが軒並み天皇制に絡め取られていった経緯を、倉田百三、亀井勝一郎、吉川英治、三井甲之、箕田胸喜といった人々の内面に分け入って分析している。大正期の煩悶青年たちが、親鸞の絶対他力の信仰を媒介にして超国家主義に陥っていった思想的系譜が跡づけられている。特に真宗大谷派の戦時教学がどのように形成されたかについて、194121315日に行われた真宗教学懇談会の記録に注目し、暁烏敏、曽我量深、金子大栄といった親鸞主義者たちの果たした役割について紹介されている。実はこの人々が戦後の真宗教学の中核を担うことになるのだが、これまで真宗内ではその戦争責任の問題はほとんど取り上げられてこなかった。この課題は、戦時下の日本的キリスト教の主張と並行しており、その共通性と差異についても考えさせられた。
木村恵子『キーフさん ある少年の戦争と平和の物語』(近代文芸社)キャンプソング「幸せなら手をたたこう」の作者である木村利人さん(生命倫理学者、元・恵泉女子大学長)の少年時代の歩みを、恵子夫人が物語化した少年少女向けの読み物。NCAに寄贈されていたのを一読した。夫の少年時代を妻が書くというのも珍しいが、これも一つの子どもの戦争体験の証言ではある。
谷川俊太郎『ワッハワッハハイのぼうけん』(小学館文庫)詩人・谷川俊太郎の童話に、和田誠が挿絵を描いた童話集。サンテグジュペリの『星の王子さま』に、大人になると子どもに見えるものが見えなくなるとあったが、超人・谷川俊太郎はいつまでも子どもの魂を保持しているらしいことが分かる。
内田樹『街場の天皇論』(東洋経済新報社)天皇の生前退位の意向表明を内田樹がどのように観ているか関心をもって読んだ。著者は民主主義と象徴天皇制は両立し得るという立場を打ち出している。平成天皇は、象徴天皇の役割として「傷つき苦しむ国民を慰謝することと、敵も味方も含めて先の大戦の戦没者たちの霊を弔うこと」と理解し、それが高齢で担えなくなったので退位したいと宣言したのだという。私は、生前退位の表明は第二の「天皇の人間宣言」と受け止めているので、著者の論理を大筋で了解できる。しかし象徴天皇制が国家神道と再び結びつく危険性への歯止めをどのように設定するか懸念が残った。

鵜沼裕子『近代日本キリスト者との対話 その信の世界を探る』(聖学院大学出版会)日本キリスト教史研究の先輩である著者から寄贈を受けた。内村鑑三や新渡戸稲造、賀川豊彦、高倉徳太郎といった人々の信の世界を思想史的に分析した論文集で、私自身の勉強の領域と重なるところがあり、大いに参考になる。そのうちいくつかは、学会誌などで既に目を通していたが、改めて教えられることが多かった。特に「郷土会」をめぐる新渡戸稲造と柳田国男との交流については初めて知ることができた。(戒能信生)

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