2019年11月9日土曜日


牧師の日記から(239)「最近読んだ本の紹介」

大澤絢子『親鸞「六つの顔」はなぜ生まれたのか』(筑摩選書)浄土真宗の開祖親鸞が、歴史的にどのように描かれ、伝えられ、理解されて来たかを分かりやすく解説してくれる。「御伝絵」に描かれた親鸞像が、やがて巨大教団の宗祖として祭り上げられていく。しかし特に明治期以降、実証的な研究と相俟って、人間親鸞の姿が描き出されるようになり、さらに「私の親鸞像」が研究者だけでなく、文学者や思想家たちによって取り上げられるようになる。明治期の清沢満之、暁烏敏の親鸞研究に始まり、大正期の倉田百三の『出家とその弟子』、吉川英治、丹羽文雄、五木寛之といった小説家たちによって描かれた人間親鸞、亀井勝一郎、吉本隆明、山我哲雄、梅原猛、中島岳士といった思想家たちが取り上げた親鸞思想が簡明に紹介されている。実は、私自身も高校生の時、暁烏敏の『歎異鈔講話』に惹かれ、富山に住む亀谷凌雲牧師をわざわざ訪ねたことがある。亀谷牧師は、蓮如上人の直系の子孫で、浄土真宗の寺に生まれたが、東大の宗教学科に学び、やがてキリスト教と出会って洗礼を受けて牧師になった人。亀谷牧師から聞いた言葉はほとんど忘れてしまっているが、その当時80歳を超えていたその温顔と人柄を、今でも時折思い出すことがある。

A.ヴィルシング、他『ナチズムは再来するのか? 民主主義をめぐるヴァイマル共和国の教訓』(慶應大学出版会)最も民主的な憲法を擁したヴァイマル共和国が、わずか15年で崩壊し、ヒットラー政権によって終焉する。そこに至る経緯を、政府の失態、政党・党派の確執、巨額の戦時賠償と、さらに世界恐慌によって破綻した経済、当時のマスコミの動向などの多角的観点から、歴史学者や政治学者が論じている。そこに共通するのは、流入する難民への排斥を訴えて急浮上した「ドイツのための選択肢」(AfD)に典型とされる現在ドイツの政治状況への危機感である。安易な比較はできないが、ヴァイマル共和国の破綻の教訓は、他人ごとではないと改めて考えさせられた。民主制もまた壊れ物なのだ!

志垣民郎『内閣調査室秘録 戦後思想を動かした男』(文春新書)内閣調査室は、吉田茂首相の命令で、内閣官房調査室が設立されたことに始まる。その創設メンバーの一人である著者の詳細な備忘録を編集したもの。要するに、日本を共産化させないために、学者や知識人たちに働きかけて世論を動かそうとしたという。内調に接待された人々の記録が、日時や接待内容、さらに渡された金額まで細かく記録されていて興味深い。委託費を受け取らなかった人々の中に、鶴見俊輔・横山貞子夫妻の名前を見出して驚いた。『思想の科学』の共同研究「転向」のために、公職追放の資料を渡したという。また『戦艦大和ノ最期』で知られる吉田満と、著者は高校以来の親友で、終生交流が続いていたという。

中村光『聖☆おにいさん』112巻(講談社)イエスとブッダが、天界から休暇をもらって立川に下宿して共同生活をする。その日常を面白おかしく漫画で描いたもの。早稲田教会のロビーにあったので借りて来て読んでみた。(戒能信生)

0 件のコメント:

コメントを投稿