2020年4月18日土曜日


牧師の日記から(262)「最近読んだ本の紹介」

山本太郎『感染症と文明』(岩波新書)新型コロナウィルスの感染拡大で、改めて感染症の歴史を理解するために読んだ。与えられた知見は数多い。先ず、私たちの病気には大きく分けて感染症系と非感染症系の二つがあるという指摘。高血圧とか糖尿病、脳梗塞といった生活習慣病、さらに癌や心筋梗塞といった現代人の死亡原因の上位を占めるお馴染みの病気はすべて非感染症系。しかし歴史的に人類を脅かし、大きな脅威であり続けたのは、天然痘、結核、ペスト、コレラなどの感染症だった。医学は、主にこれらの感染症を解明し、治療薬やワクチンを発見する中で発達して来たと言える。そして20世紀に入って公衆衛生が整い、ようやくこれらの感染症を撲滅したかと考えられていた。ところが最近になって、新型インフルエンザ、エボラ出血熱、エイズ、そしてSARSMERS、さらに今回の新型コロナウィルス(正式名称COVID-19)といった新しい感染症が次々に発生するようになる。それらの多くは、自然界や動物たちの間で眠っていて、精々特定地域の風土病でしかなかったものが、乱開発によって人類が境界を越えて自然界を侵したことからヒト・ヒト感染へと変異し、さらにグローバリズムによって瞬く間に世界中に拡がるようになったという。以前読んだジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』などで、感染症が人類の歴史に大きな影響を及ぼしてきたことは知っていたが、改めてその脅威に目を開かせられた。巨視的に見れば、人類が地球の許容度を遙かに越えて膨張し、臨界点を越えたが故の自然界の反撃と言えるのかもしれない。しかしこの新しい病原菌が、私たちの社会に突き付けている問いは深刻かつ重大だろう。私は自分の人生の終盤に出会ったこの新しい感染症について、その宗教的、神学的な意味を改めて考えさせられている。

スティーブ・ジョンソン『感染地図』(河出文庫)1854年のロンドンでコレラが大流行する。まだコレラ菌が発見される前だったので、その原因について様々な見解があった。テムズ川の汚染説、瘴気説、気温・湿度説、さらに神の審判説等々。ジョン・スノウという医師が、こつこつと罹患者の感染地図を作り、井戸水に汚水が流れ込んだという説を唱える。様々な反論の中で、井戸水ポンプの柄を取り外すことによって疫病は収束する。公衆衛生学がここから始まったとされる。その過程をドキュメンタリー・タッチで描いており、なかなか迫力があった。

ウィリアム・アレグズザンダー『影なき者の歌』(東京創元社)羊子の推薦で読んだ『仮面の街』の続編。前著と同じ時代設定で、今度は全く別の少女を主人公とするファンタジー。自分の影(自らの分身である自我を象徴しているのだろうか?)と分離してしまい、影なき者(生ける死者)になってしまった主人公が、家を出て数々の冒険の末、音楽を通して自分の影と和解して再び合一するまでを描く。前作よりもはるかに読みやすく、おもしろかった。(戒能信生)

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