2025年4月26日土曜日

 

牧師の日記から(517)「最近読んだ本の紹介」

 細見和之『石原吉郎 シベリア抑留詩人の生と死』(中公文庫)詩人・石原吉郎は信濃町教会の教会員だった。周囲がすべてスーツ姿の中で、灰色のジャンパーを着て礼拝に出席している小柄な石原さんの姿を覚えている。しかし言葉を交わしたことは一度もない。ご自身のシベリア体験を書かれた『望郷と海』を繰り返し読み込んで、その独特の文体から決定的な影響を受けた。けれどもその難解な詩には、何度か挑戦したが遂に歯が立たなかった。その石原吉郎の詩について、ドイツ文学の研究者で詩人でもある著者が、シベリア体験とは切り離して読み解こうと試みたのが本書。中でも「ペシミストの勇気について」で知られる鹿野武一について、その妹の証言や手記などをもとにその実像を紹介しているのが興味深かった。石原は、過酷なシベリア体験の中での自分の理想像を鹿野に重ねていると分析しているのだ。管季治が紹介したエスペランティスト鹿野武一の美しい姿との落差について、それが鹿野をも打ちのめした収容所での過酷な体験を推測していて考えさせられた。

リタ・ナカシマ・ブロック、他『灰の箴言 暴力、贖罪における苦しみ、救済の探求』(松籟社)訳者の福嶋裕子さんから贈られて、リタ・ナカシマの書いた部分だけを読了した。米軍兵士と看護婦をしていた日本人女性の間に生れ、その後沖縄、ドイツ、アメリカで育ったアジア系アメリカ人女性の若き日の苦悩の歩みが物語られている。福音派系の家庭環境で育ち、日系人としてのアイデンティティーの揺らぎ、父権主義的な父親との衝突、さらに人種差別による痛苦な経験の中で、宗教学を学び、キリスト教信仰を捉え直し、博士課程まで進んで研究者として自立するに至る。まだフェミニズム運動などが拡がる以前のアメリカ社会での日系人女性の悩みと苦闘の歩みが綴られている。

和田誠『切抜帳』(新書館)和田誠さんのイラスト、カット、ポスター、似顔絵、週刊紙の表紙、装丁などが切り抜かれ、エッセーや仕事場日記、対談、脚本などと取り混ぜて編集されているオシャレな一冊。文庫本の細かい字が読めないと嘆いていたら、羊子が誕生日にプレゼントしてくれた。以来、手許に置いて暇があれば繰り返し眺めている。(戒能信生)

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