2025年7月19日土曜日

 

牧師の日記から(526)「最近読んだ本の紹介」

 黒柳徹子『トットあした』(新潮社)黒柳徹子さんの多様な交遊録の中から、徹子さんを励まし支えた人々の言葉を集めて編集されている。例えばトモエ学園の小林宗作校長の言葉「きみは、本当は、いい子なんだよ!」。NHKに入局して、徹子さんの個性が邪魔だと散々言われて落ち込んでいた時に、劇作家の飯沢匡さんからかけられた言葉「直すんじゃありませんよ。あなたの、そのままが、いいんです!」などなど。芸能界という浮き沈みの激しい世界でこんなに長く生き抜いて来た秘密が明かされていると言える。ほとんどがこれまで様々な形で紹介されているエピソードだが、改めて黒柳徹子という個性に感嘆する。

 大澤真幸「戦後80年 最初と最後の政治風景」(『世界』8月号、岩波書店)戦後80年特集で大澤真幸の論考が目にとまった。戦争責任についての論争で、吉本隆明が鶴見俊介を批判して、欧米の思想を借りてきても駄目だ、井戸の底を掘り続けることによって初めて井戸の外に通じ得ると主張した。その際の基準が「大衆の原像」だった。大衆から孤立したいかなる思想も成立しないと吉本は喝破したのだった。しかし戦後80年を経たこの国の「大衆の原像」はどこにあるかと大澤真幸は問う。社会学者橋本健二の調査に基づいて、現代日本人の政治意識を分析し、「新自由主義右翼」が台頭しつつあり、リベラル勢力はそれに対抗できていない現実が提示される。つまりアメリカでトランプ政権を支持する社会層がこの国にも定着しつつあるというのだ。戦後思想そのものが今や問われていると言えるだろうか。

 川上直哉『宗川さんの意見』(『東北HELP2025年夏号』)福島第2原発の爆発事故による小児甲状腺がんの「被ばく発症」と「通常発生」の疫学調査をめぐる議論が紹介されている。東電は一貫して原発事故の影響は無いと主張しているが、宗川吉汪という研究者が「科学の解釈学」の立場から一定の被ばく発症の事実を提示している。その宗川さんが冒頭の自己紹介で「妻の祖父は白井慶吉牧師」とあるので、驚いて調べてみた。確かに白井慶吉牧師の孫・永松淳子さんのお連れ合いで、生命科学が専門で、京都工芸繊維大学名誉教授とのこと。(戒能信生)

 

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