2017年4月7日金曜日

牧師の日記から(104)「最近読んだ本の紹介」
 O.プロイスラー『クラバート 上下』(偕成社文庫)現代ドイツを代表する児童文学者(『大泥棒ホッツェンプロッツ』の作者)が、中世ラウジッツ地方の民話を下敷きに書いたファンタジー。水車小屋で働く主人公の少年が、魔法使いの親方の支配を乗り越えて自立する成長物語。子ども向けに書かれたものだが、仲間と愛する少女の助けを借りて、困難と危機を乗り越えていく姿に感銘を受けた。
 ジョナサン・オージエ『夜の庭師』(創元社推理文庫)19世紀、アイルランドのジャガイモ飢饉から逃れてイギリスに辿り着いた14歳の少女と11歳の弟の二人が、家政婦と庭師としてお屋敷奉公をする。ところがそこには樹の精霊「夜の庭師」がいて、居住者に望みの物を与える代わりに生気を吸い取っていた。姉と弟は数々の困難に遭いながら力を合わせてゴーストをやっつけ、主人一家も助けて、また次の旅を続けるという少年少女向けのファンタジー。羊子の勧めで立て続けに何冊かファンタジー物を読んだが、中にはきわめて優れた作品がある。
 信木美穂『ひまわりの丘 福島の子どもたちとともに』(LABO)原発事故から避難してきた子どもたちに寄り添って書かれた詩と音楽CD。友人の木田みな子さん(故・木田献一夫人)が送ってくれた詩文集で、お嬢さんのいずみさんが制作に携わっている。日本聖書神学校での演奏会には行けなかったが、CDを聴いて、特に最後の祈り「神よ、あなたはそこにおられるのか」が印象的だった。
奥田智志『もう、ひとりにさせない わが父の家にはすみか多し』(いのちのことば社)北九州市でホームレス支援をしている奥田牧師の手記。ホームレス支援は従来の社会福祉の概念には含まれていないので、支援する枠組みから作り上げねばならなかったようだ。支援する手が、プロや専門家の一本の太い手よりも、何人もの素人の細い手によって支えられるという指摘は鋭いと感じた。
村上春樹『翻訳ほとんど全仕事』(中央公論社)作家村上春樹は、他方で翻訳家としても知られる。本書はその翻訳の全貌を紹介したもの。しかしその量が半端ではない。私自身も村上訳で、サリンジャー、フィッツジェラルド、レイモンド・カーヴァー、チャンドラー、カポーティ等のアメリカ文学をずいぶん読んで来たことに改めて気づかされた。しかしとうていそのすべてに目を通しているわけではない。翻訳は全く受動的な作業だが、作家としての創造的仕事とバランスを取るのに適しているという。それにしても驚異的な仕事ぶりではある。

峯崎康忠『軍人伝道に関する研究』(ヨルダン社)教会の本棚の片隅に見つけた一冊。戦前の教会史の資料を見ていると、職業軍人の教会員が少なくないことに気づかされる。中には将官にまで累進したクリスチャンもおり、篤実で清廉な人格者が多かったと伝えられている。しかし戦後、平和憲法によって戦争放棄が謳われ、軍部が解体されると、これらクリスチャン軍人の存在は急速に忘れられていく。この小さな書物は、明治期からの軍人伝道の記録を掘り起こしている貴重な研究である。(戒能信生)

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