2018年4月28日土曜日


牧師の日記から(159)「最近読んだ本の紹介」

山形孝夫『砂漠の修道院』(平凡社ライブラリー)聖書学者でもある著者が、エジプトのコプト教の修道院をフィールドワークで繰り返し訪れたレポート。初代キリスト教史において、特に聖アントニウスを初めエジプトの隠修士たちの孤独な修道生活は知っていたが、現代コプト教でそれがそのまま継承されている事実に先ず驚かされた。ナイル川西岸の砂漠地帯に小規模な修道院があり、さらにそこから奥地に一人離れて修道生活をする人々がいる。いずれもカイロ大学を初めとする高等教育を受けた知識人で、職業を放棄し、家族を捨て孤独な修道生活を続けているという。風の中にキリストの招きを聴いたというのだが・・・。

藤門弘『シェーカーへの旅』(平凡社)18世紀の後半、イギリスからクウェーカーの流れを汲むキリスト者の一団がアメリカ大陸に入植する。アン・マリーという中年の女性をリーダーとする8人で、これがシェーカー派という独特の共同体を形成する。19世紀にかけて全米各地に拡がり、共同体は最盛期を迎える。結婚を否定しているので子どもは産まれず、孤児を引き取って育て、成人すると共同体を離れるか残るかを自ら決めさせた。20世紀の半ばには構成員が高齢化して終焉を迎えるが、現在ではその手作り家具や独特の建築物が知られている。その素朴な優美さと機能性は写真を見るだけで驚くほど現代的なデザイン。著者もシェーカー家具に魅せられ、その復元を試みる木工職人とのこと。シェーカー(「激しくシェイクする人々」の意)はそのダンスと独特の歌が有名だが、讃美歌21290番には、このシェーカー派の讃美歌が採用されている。

郭南燕『ザビエルの夢を紡ぐ 近代宣教師たちの日本語文学』(平凡社)自らが中国生まれで、日本に留学して日本語を学んだ著者が、この国に来日した宣教師たちの日本語による著作を取り上げる。ザビエルに始まり、明治初期に来日したヴィリオン神父、日本語の達人と言われたカンドウ神父、戦前上智大学の学長を務めたホイヴェルス神父、そして遠藤周作の『おバカさん』のモデルとされるネラン神父。この人たちの見事な日本語表現を読み直して、改めて宣教師たちの日本への愛情と献身を思い知らされた。著者はこの国のクリスチャンは1%にも満たないが、本当の仏教徒も1%に過ぎない事実を指摘している。

ドナルド・ウェストレイク『最高の悪運』(ハヤカワ文庫)怪盗ドートマンダー・シリーズの一冊。主人公がホテル王の豪邸に侵入して、逆に拳銃で脅され、嵌めていた変哲もない指輪を取り上げられ上で警察に突き出される。怒った主人公は、脱走して逆にホテル王を付け狙い、犯罪者の仲間を引き連れてラスベガスのホテルを襲う。一種のユーモア・ミステリーなのだが、何度も破産しているのに、弁護士を使って巧みに財産を保全して復活する悪徳ホテル王のモデルが、現在のアメリカ大統領だというので読み直した。ウェストレイクは私のお気に入りのミステリー作家で、他のシリーズを含めて翻訳されているものはほとんど目を通している。寝られない夜には絶好の暇つぶしになる。(戒能信生)

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