2025年8月16日土曜日

 

牧師の日記から(530)「最近読んだ本の紹介」

 石垣りん『新版 ユーモアの鎖国』(ちくま文庫)石垣りんの最初のエッセー集が文庫本で復刊されたので目を通した。詩人の日常の中から、詩がどのように生まれるかを垣間見ることができる。例えば職場新聞に掲載された戦没者の名簿に、次のような詩を添える「弔詞 ……私は呼びかける/西脇さん/永町さん/みんな、ここへ戻って下さい/どのようにして戦争にまきこまれ/どのようにして死なねばならなかったか/語ってください/戦争の記憶が遠ざかるとき戦争がまた/わたしたちに近づく/そうでなければよい/八月十五日/眠っているのは私たち/苦しみにさめているのはあなたたち/行かないで下さい皆さん、どうかここに居て下さい」

 あるいは四日市の公害を取材して、次のように記す。「立札 『高圧ガスがうまっています/異常があったらデンワを下さい』/人家の塀にはられた合成ゴム会社の木の札/矢印の左の方向に歩いて行ったら/遊園地がありました/異常があるまで遊んでいてほんとうにいいのでしょうか?」

 渡辺一夫『敗戦日記』(ちくま学芸文庫)フランス文学者渡辺一夫が戦時下に密かに書き綴ったフランス語交じりの日記が、串田孫一によって翻刻された。東京大空襲の翌日311日から始まり、815日で終わっている。冒頭にダンテのLasciate ogni eperanza「すべて望みを捨てよ」が引かれている。以下、考えさせられた記述を引用してみよう。「もし竹槍を取ることを強要されたら、行けという所にどこにでも行く。しかし決してアメリカ人は殺さぬ。進んで捕虜になろう。国民のorgueil(高慢)を増長せしめた人々を呪う。すべての不幸はこれに発する」(312日)。「知識人の弱さ、あるいは卑劣さは致命的であった。日本に真の知識人は存在しないと思わせる。知識人は、考える自由と思想の完全性を守るために、強く、かつ勇敢でなければならない」(315日)。「まさに崩壊しようとしている祖国、だが存続しなければならぬ祖国のために。生きのびることが僕の義務だと思う。知識人としては無に等しい僕でも、将来の日本にはきっと役立つ。ひどい過ちを犯し、その償いをしている今の日本を唾棄憎悪しているからだ。」(戒能信生)

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