牧師の日記から(535)「最近読んだ本の紹介」
鶴見俊輔『期待と回想』(晶文社)筑摩書房の『鶴見俊輔集』全12巻の付録として、若い研究者たちが鶴見俊輔に長時間インタビューしたものを上下巻に編集したもの。講演でもなく、またエッセーでもない独特の鶴見節が全開で展開される。刊行された直後に読んでいたが、久しぶりに再読した。自分が鶴見俊輔から大きな影響を受けてきたことを改めて確認させられた。特に50年にわたって継続した雑誌『思想の科学』が1996年に終刊になったのを受けての鶴見の感懐に感銘を受けた。『思想の科学』では「同人仲間を一度もパージしなかったことを誇りとする」と鶴見は語っている。戦後の共産党や様々な政治路線をめぐる難しい局面で、激論や内部対立があったはずだが、多彩多様な同人たちが鶴見を中心に共同で『思想の科学』を発行し続けたことに頭が下がる。そこから連想して、ここからは私自身が編集同人として携わってきた『時の徴』についての感想。『時の徴』は1977年に創刊され、来年3月発行予定の175号で休刊となる。まる49年間継続されたわけだ。創刊当時の編集同人は、雨宮栄一、井上良雄、木田献一、東海林勤、森岡巌、戒能信生の6名で、私以外の同人はすべて亡くなっている。最も若い同人だった私は、雑用係のつもりだったが、創刊当時は隔月刊だったこともあり、定期的に執筆の担当が回って来て往生したことを覚えている。自分に中身がないことをつくづく痛感させられた。まだ自分の専門とする勉強の領域が決まっていなかったし、信仰的・神学的な姿勢も曖昧なままだった。それが『時の徴』の刊行を担い続ける中で、自分の研究の領域が定まっていき、発言する基軸のようなものが備えられてきたように思う。教会の牧師としての働き以外に、季刊の定期刊行の責任を負うことは重荷ではあったが、ここが自分の発言の場所と思い定めたのだった。自分でも49年間よく続けられたと思うが、それはすべて講読者たちに支えられてのことだった。なにせ一度も赤字にならなかったのだ。最初の頃、発送事務を直子さんを初め子どもたちが手伝ってくれたことを懐かしく思い出す。『時の徴』はある意味で私の分身だった。一抹の寂しさはあるが、やはりそういう時が来たのだと思っている。(戒能信生)
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