2025年10月25日土曜日

 

牧師の日記から(538)「最近読んだ本の紹介」

 トム・フィリップス『大失敗の世界史』(河出文庫)著者はイギリスのジャーナリストで、痛烈な皮肉とユーモアを交えて世界史の数々の失敗例を紹介する。面白がって読んでいくうちに、ヒトラーについての言及の部分が気になった。ヴァイマル時代末期、政党が多党化し、どの政党も多数を取れずに政局が混乱する。ナチスに人気が集まり、比較第一党になる。前首相のパーペンは、粗野で政治のド素人のヒトラーを頭からバカにし、意のままに操れるとタカをくくって連立内閣を組み、ヒトラーを首相に、自らは副首相に就任する。危惧する仲間にパーペンは、「二か月もすれば、あの素人は政界の片隅に追いやられているだろう」と豪語していた。しかし実際には二か月後、パーペンは政界を追われ、ヒトラーは全権委任法によってすべての権力を握ってしまった。そこからヒトラーの暴走が始まった。トランプ政権の迷走や日本の政局の混迷を見るにつけ、なんだか恐ろしくなってきた。知識人たちが馬鹿にしてきた政治家が、いつの間にか絶対権力を握りかけているのだ。著者はこう指摘している。「間抜けな男が手前勝手な裁量で政権を支離滅裂に振り回し、自分ならこの間抜けを手のひらで転がせると侮った自信過剰の側近たちが、破局に至る道を助けたのだ。」

 鶴見俊輔・網野善彦『歴史の話』(朝日新聞社)「網野史学」で知られる歴史家と市井の哲学者の初めての対談集。日本の歴史について縦横無尽に語られていて興味津々。その中で山中共古について短く触れられている。先日、野口洋子さんから、ボランティアをしている新宿歴史博物館の展示で、この近くで生まれた山中共古という牧師が紹介されていたが知っているかと尋ねられて驚いた。山中共古(後に「山中笑」と改名)は、幕末期に、教会のすぐ近くの西念寺(私の散歩コース)に、幕臣の次男として出生。14歳の時、皇女和宮の近侍として登用され、明治維新と共に駿府へ移住。そこでメソジストの宣教師の感化を受けて21歳で受洗、東洋英和学校(後の青山学院)を卒業してメソヂスト教会の最初期の牧師になる。長く山梨県下で牧会する傍ら、民俗学の研究で知られる。キリスト教界でよりも、この国の民俗学のパイオニアとして有名なのだ。(戒能信生)

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