2016年6月9日木曜日

牧師の日記から(62)「最近読んだ本から」
クリスチャン・カリル『すべては1979年から始まった 21世紀を方向づけた反逆者たち』(草思社)1990年「ベルリンの壁崩壊」以降の世界の政治は、従来の社会主義対自由主義の対立の構造から大きく変貌し、混迷を深めている。そのような転換の背後に、イランのホメイニ革命、ヨハネ・パウロ2世の教皇就任、イギリスのサッチャー政権の成立、そして中国の鄧小平による経済改革が同時期に並行して起こった事実に着目し、現在も続く市場経済至上主義と政治化した宗教の横行を重ねあわせて分析する意欲作。著者はジャーナリストで、ニューズウィーク誌の元東京支局長。私自身、ここに取り上げられている政治事象の時代を生きて来たが、それをつなげたり、文脈化して捉えることはして来なかったので、興味深く読んだ。
マイケル・ウォルツァー『解放のパラドックス 世俗革命と宗教的反革命』(風行社)著者はプリンストン高等研究所のリベラル派のユダヤ系政治学者だが、アメリカ同時多発テロ事件以降、聖戦論の立場に立ってブッシュ政権を支持して来たという。本書は、インド国民会議の民族解放運動、イスラエル建国運動のシオニズム、アルジェリアのFLNの三つのケーススタディを通して、世俗的かつリベラルな植民地解放運動が、結果として原理主義的な宗教の復興を招いた逆説を読み解こうとする専門的な研究書。私には歯が立たない部分もあったが、その問題意識は明快でよく理解できる。つまり現在世界で起こっている宗教と政治をめぐる事態は、従来の政治理論や神学理解では容易に説明できない。この著者には『出エジプトの解放の政治学』(荒井章三訳、新教出版社)という著書もあり、関心をもって拾い読みした。
田上雅徳『入門講義 キリスト教と政治』(慶應義塾大学出版会)キリスト教と政治の関わりを、古代から中世、そして近世から現在に至るまで概略的に解説した講義録。著者は1963年生まれの研究者だが、目を通した限りではきわめて正確にこれまでの議論を踏まえている。カール・バルトのドイツ教会闘争への参与や、戦後のラインホルド・ニーバーのキリスト教リアリズムなどについてもきちんと取り上げられていて、教えられるところが多かった。

トニー・パーカー(沢木耕太郎訳)『殺人者たちの午後』(新潮文庫)死刑制度を廃止しているイギリスでは、殺人犯受刑者たちも、再犯の可能性が少ないと見做されると釈放され社会復帰する。そういう10人の殺人者たちへのインタビューをまとめたもの。彼・彼女らがそれぞれ自分の言葉で犯した事件を振り返り、現在の心境を語っている。他に類書の見られないきわめて注目すべき証言集で、取り返しのつかない殺人の罪を犯した者の率直な告白を聞く想いがした。読後感は決して爽やかなものではないが、この著者のインタビュアーとしての力量に驚かされた。(戒能信生)

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