2016年6月16日木曜日

牧師の日記から(63)「最近読んだ本から」
トム・ボウマン『ドライ・ボーンズ』(ハヤカワ文庫)ペンシルヴァニア州の山間部の小さな村で起こった殺人事件を追う奇妙な味わいの警察小説。大都市の犯罪を取り上げるサスペンスと違って、「カントリー・ノワール」というジャンルで、シェールガスの採掘権をめぐる経済的相克を背景としながら、大自然の中で自立的に生きる人々の描写が興味深い。因みに、原題は旧約聖書エゼキエル書37章の「枯骨の谷」から採られているという。
小林哲夫『シニア左翼とは何か 反安保法制・反原発運動で出現』(朝日新書)最近、いろいろな市民集会に参加すると、圧倒的に高齢者が多いことに気づかされる。昨年夏の安保法制反対の国会前のデモもそうだった。だからこそ逆にSEALDsの若者たちが目立ったとも言える。柄谷行人が、年金生活者を含む老人たちこそが、これからの政治的希望だという意味のことをどこかで書いていたが、本書はそのシニア世代の左翼活動家たちを追ったルポルタージュ。時折、新聞の片隅に党派間の内ゲバ事件が報道され、私と同じ世代の活動家が殺害されたという記事を読んで、胸を突かれることがあった。そういうシニア世代の活動家たちの現在も丁寧に追っている。
筒井康隆『現代語裏辞典』(文春文庫)昔、ピアスの『悪魔の辞典』という小さな本があって、皮肉とブラック・ユーモアを交えて、言葉の再定義をしていた。日本の作家で、同じようなことをするなら筒井康隆だろうと思っていたら、案の定この本が出た。いくつか紹介すると、「キリスト 欧米では悪いことが起きた時にこの人の名『ジーザス』を言う。よほど悪い人であったようだ。」「聖書 最も多くパロディにされた書物」という具合だ。通読するものではなく、時々拾い読みして面白がっている。
村上春樹『村上ラヂオ③サラダ好きのライオン』(新潮文庫)著者の重厚な大作執筆の合間に、若い女性向けの雑誌『アンアン』に連載したエッセー集の第三弾。この人独特の軽い文体でスラスラ読めるのだが、見事に後に残らない。むしろ後に残らない文章を書くことを目的としているとしか思えない。音楽の世界にイージー・リスニングという言葉があるが、イージー・リーディングとでも呼ぶべきか。

吉田秋生『海街diary』1-7巻(小学館)羊子に勧められて読んだ漫画。この作家の作品はこれまでもいくつか読んできたが、この作品は特によく出来ている。両親を相次いで亡くした中学生の少女が、腹違いの三姉妹に引き取られて鎌倉で新しい世界を切り拓いていく物語。鎌倉や湘南の名所案内にもなっていて、観てはいないが、映画化もされたそうだ。昔なら小説家志望だった若者の多くが、現在ではマンガ家を目指すという。さもありなんと思わされた。(戒能信生)

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