2016年11月13日日曜日

牧師の日記から(83)「最近読んだ本の紹介」
橋爪大三郎・大澤真幸『元気な日本論』(講談社新書)気鋭の社会学者が日本の歴史を縦横に論じ合った対談集。橋爪さんが準備した日本史に関する素朴な疑問を手がかりに、大澤さんがコメントする仕方で進行する。「なぜ日本の土器は世界で一番古いのか」「なぜ日本には青銅器時代がないのか」「なぜ日本に天皇がいるのか」といった切り口から、「眼から鱗が落ちる」ような議論が次々に展開される。但し、近世史になってくると、儒教の評価などについての議論が錯綜して分かりにくくなる。しかし歴史学の専門家が見落としているような論点が次々に取り上げられて、なかなかスリリングな読み物となっている。
袖川裕美『同時通訳はやめられない』(平凡社新書)教会員の常盤陽子さんがこの国の同時通訳者の草分けのお一人であることもあって、手に取って興味深く読んだ。国際会議の際のブースからの同時通訳だけではなく、放送通訳や、首脳外交などの場合の耳元での囁き通訳など、想像していた以上に奥が深い世界だ。ほとんど職人芸とも言うべき同時通訳の世界を、ご自身の体験から面白おかしく紹介してくれる好著。経済学や科学諸科、あるいはスポーツから芸術の世界まであらゆるジャンルを扱うので、専門用語などその予習というか準備が大変だということも教えられた。国際会議などで何度か同時通訳のお世話になっていつも隔靴掻痒の感じがしていたが、通訳者のご苦労を改めて知らされる思いだった。
黒柳徹子『トット一人』(新潮社)故・斎藤晃子さんの遺品の中からたくさんの書籍がバザーに献品されたが、その中にこの本を見つけた。『窓際のトットちゃん』の続編で、向田邦子、渥美清、森繁久弥、沢村貞子など、交友のあった人々の交遊録と思い出が生き生きと書かれていて、感銘深く読んだ。この国のテレビの草創期の時代から芸能界に生きて来て、これほど純粋でぶれない歩みを続けた人も珍しい。身贔屓かも知れないが、黒柳さんがクリスチャンの家庭に生まれ、幼児洗礼を受け、教会学校に通っていたことも無関係ではないと思わされた。
二宮敦人『最後の秘境 東京芸大 天才たちのカオスな日常』(新潮社)著者の夫人が芸大の彫刻科に在籍していて、そのツテで現役芸大生たちにかなりディープなインタビューをしている。話には聞いていたが、特に美術系の芸大生たちにまつわる伝説や裏話が面白い。いつも美術展に行く度に思うのだが、こんなにたくさんのアマチュア画家たちが熱心に絵を描いている国は、他にないのではないか。平和で豊かなこの国を象徴しているとも言える。

五木寛之『運命の足音』(幻冬舎)これは、印刷室に並べられている教会の図書の中に見つけた。若い時はこの著者の小説を愛読したものだが、最近はあまり目を通さなくなった。著者は戦前教師であった父親と共に朝鮮に住んでいた。その朝鮮での敗戦と母親の死、そして引き揚げの痛苦な体験が率直に書かれている。引揚者の心情がどのようなものであったのか、戦前の外地にあった邦人教会の歴史を調べていることもあり、興味深く読まされた。(戒能信生)

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