2018年7月14日土曜日


牧師の日記から(170)「最近読んだ本の紹介」

アーシュラ・ル・グイン『ゲド戦記Ⅰ~Ⅴ巻、外伝』(岩波書店)子どもたちがまだ小学生から中学生の頃一緒に読んだ。しかし当初、第Ⅲ巻の『さいはての島へ』で完結したと思われていたのが、18年後に第Ⅳ巻『帰還』が書かれ、さらに11年後第Ⅴ巻「アース―シーの風」と続き、その間に外伝『ドラゴンフライ』が書かれている。その時々に読んで来たが、以前から全巻を通読してみたいと考えていた。この6月から7月にかけては、依頼されていた講演がいくつもあり、責任のある研究発表の準備もしなければならなかったのだが、羊子の本棚から全巻を引っ張り出して読み始めたらもう止まらない。仕事をそっちのけにして楽しみながら読み通した。私にとってのファンタジー小説は、トゥールキンの『指輪物語』を別とすると、この『ゲド戦記』にとどめを指す感がある。フェミニズムの視点から女性たちを主人公に代えて行った軌跡も、私には違和感がなかった。

山本周五郎『暗がりの弁当』(新潮文庫)若い頃、山本周五郎の時代小説をよく読んだ。中には何度も繰り返して愛読したものもある。主な作品を読み尽くしてからは、いつしか池波正太郎や藤沢周平などに移っていったが…。その山本周五郎が当時の新聞や雑誌に掲載したエッセーを編集した文庫本というので目を通した。かなり癖のある偏屈な小説家の日常生活が伺えて興味深かかった。

林綾野『フェルメールの食卓』(講談社)教会の本棚にあった小さな画集。フェルメールの絵が好きで、以前「真珠の耳飾りの少女」が来た時、東京都美術館に観に行ったことがある。思ったより小さな絵だったが、その色彩の美しさに驚いた。この画集の解説によれば、フェルメールはレンブラントより26歳年下とのこと。そう言えばレンブラントの肖像画の女性たちは、黒い衣装に白い襟という地味な服装が多いのに、フェルメールのそれは青や黄色や赤などの色彩が豊かだ。これはフェルメールが活動した17世紀の半ばのオランダの経済的な豊かさを反映しているという。画家の死後に作成された財産目録にその絵に描かれた衣装が記録されているとのこと。そのほかにも、フェルメールの絵に出てくる家具や食器、さらに料理まで考証して、それを再現している。

青柳正規『人類文明の黎明と暮れ方』(講談社学術文庫)いわゆる「四大文明」に先立つ世界各地の文明の痕跡を、主に考古学的なアプローチから検証し、多様な人類文明の発生の在り様を紹介してくれる。文書資料が残っておらず、発掘された遺構や土器などの分析を通じて、古代文明を拓いた人々の精神世界までをも考究する。特に印象的だったのは、人類最初の文明とされるシュメールは、チグリス・ユーフラテス河からの灌漑によって農耕を定着させたが、強引な灌漑によって塩害が発生し、結果として最盛期直後に急速に没落したいう。つまりその文明の興隆の特質が、没落の原因になったという指摘は考えさせられた。
(戒能信生)

0 件のコメント:

コメントを投稿