2018年7月7日土曜日


牧師の日記から(169)「最近読んだ本の紹介」

白井聡『国体論 菊と星条旗』(集英社新書)『永続敗戦論』で論壇に登場した若き政治学者の第二弾。戦後の日本社会がアメリカの属国になっている事実を、戦前の絶対主義天皇制と比較して、最早この国の「国体」となっていると指摘する。そう言えば、今から40年ほど前、数寄屋橋で通りすがりに赤尾敏の演説を聞いたことがある。日本愛国党の党首が堂々とアメリカ万歳と叫んでいたのが印象的だった。民族主義者の右翼もまたアメリカに屈従するこの国の実態は、確かに「国体」と揶揄されても致し方ないのだろう。トランプ政権にすり寄ろうとする安倍政権にほとほと呆れるが、その歴史的背景を説き明かしている。

村上春樹『村上さんのところ』(新潮文庫)作家の村上春樹が、期間限定でネット上で様々な質問に応えた全記録。多くがディープな村上ファンからの問いに答えて、短く秀逸な回答をしている。新聞やラジオの人生相談には現代社会の断面が色濃く反映されるが、その意味でも興味深く読んだ。私は不眠症気味で、夜寝るときに必ず本を読むのだが、その内容に引きずられて逆に目が冴えてしまうことがよくある。その点、この文庫は一つ一つが短い断片のためか、絶好の睡眠導入剤になる。

本城雅人『トリダシ』(文春文庫)スポーツ新聞社の内幕を巧みに小説化している。「取り敢えずニュースを出せ」が口出しの辣腕デスクである主人公(それで「トリダシ」と呼ばれている)が、ジャーナリズムの世界では格が落ちるとされるスポーツ紙の世界で縦横無尽の活躍をする。最近の短編小説の中では出色の読み物になっている。

内田樹『寝ながら学べる構造主義』(文春新書)構造主義の思想については、フランス語ができないこともあって、食わず嫌いで来た。時折入門書などに手を出すのだが、そこで用いられる難解な用語に躓いて、ぼんやりした印象しか受けなかった。ソシュール、フーコー、ロラン・バルト、レヴィ・ストロース、そしてラカンと、極めつけの難解な思想家たちを、著者独特の読み込みで、それこそ「寝ながら学べる」仕方で紹介してくれる。と、ここまで書いて気になって調べてみると、元の新書版を数年前に既に読んでいることが判明した。「寝ながら読む」とすぐに忘れてしまうらしい。

油井大三郎『ベトナム戦争に抗した人々』(山川出版)由井さんから依頼されて、日本基督教団がベトナム反戦運動にどのように関わったのかの資料を送ったのに対して寄贈されて読んだ。ベトナム戦争は、アメリカ合衆国が唯一敗北した戦争とされるが、国内における反戦運動が大きく影響している。その反戦運動の軌跡を改めて辿り直し、そこから現在への教訓を読み取るろうとしている。反共主義を乗り越え、一部の暴力化する運動に抗して非暴力抵抗の姿勢を保持することによって多くの人々を結集し、マスコミも巻き込んで、国政にも影響を与えたという。「新しい戦前」の今、そこから学ばねばならない。(戒能信生)

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