2018年7月21日土曜日


牧師の日記から(171)「最近読んだ本の紹介」

ジェームズ・バラ『ジェームズ・バラの若き日の日記』(キリスト新聞社)1962年(文久2年)、29歳でアメリカから来日した若き宣教師バラは、先輩宣教師ヘボンやブラウンと協力して、横浜に日本最初のプロテスタント教会を設立することになる。ヘボンやブラウンの事績は比較的知られているのに、191987歳で離日するまで日本の宣教に尽くしたバラのことは不思議なことにあまり知られていなかった。初めて翻訳された自伝的文章といくつかの手紙によって、バラの人となり、そしてその信仰理解を伺うことが出来た。

須賀敦子『こころの旅』(ハルキ文庫)著者の没後20年で、様々な特集や記念出版が相次いでいる。この小さな文庫もその一冊で、これまで文庫本には未収録のエッセーを収録したというので読んでみた。しかしいずれもどこかで読んだことがあるという印象があった。と言うよりも、須賀敦子の文体と思考がこちらにすり込まれているからかも知れない。亡くなって20年も経つのに、こんなに読み継がれている人も珍しいのではないか。

トム・ハーパー『いのちの水』(新教出版社)カナダの聖公会司祭が書いた寓話を小さな絵本にしたもの。教会員の高岸泰子さんから頂いた。友人の望月麻生牧師(一昨年伝道礼拝にお招きした)が印象的な消しゴム版画を添えている。荒れ野を旅する人々の渇きを癒していた小さな泉が、やがて聖所とされ、要塞のような神殿に覆われ、祭司たちが管理するようになる。そして旅する人、渇いた人には飲めなくなってしまう。内輪揉めと難解な神学議論の横行によって生命力を失ってしまっているキリスト教界の現状を描いていると言えるだろう。『朝日新聞』朝刊の「折々のことば」欄でも紹介された。

島しづ子『尊敬のまなざし』(燦葉出版社)神学校時代の同級生に島勉という友人がいた。若くして病気で亡くなった彼のために、追悼集を編集したことがある。その後、残されたしづ子夫人は、二人の息子と重い障害のある陽子さんと共に、牧師として、また様々な障害者団体の責任者として歩んできた。その折々に書いた文章をまとめたエッセー集。特にラルシュの家の創設者ジョン・バニエとの交流が感動的。百日咳脳症の後遺症で重い障害を負う陽子さんに初めて会ったバニエさんが、心からの敬意をもって接した時、無反応と思われていた陽子さんはニコニコ笑ったという。障害を負う一人一人に尊敬をもって対する時、そこに出会いと解放が生れるというのだ。

仲正昌樹『ハンナ・アーレント「全体主義の起源」』(NKK出版)「100de名著」という教育テレビの番組を時々覗く。この番組は、難解な思想家や哲学者の生涯と著作をごくごく分かりやすく解説してくれる。アーレントは難解でほとんど読んでいないが、このテキストで勘所を知ることはできる。「考えることを止める時、凡庸な悪に囚われる」という彼女の言葉は印象的だ。(戒能信生)

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