2018年7月28日土曜日


牧師の日記から(172)「最近読んだ本の紹介」

松谷好明『キリスト者への問い あなたは天皇をだれと言うか』(一麦出版)著者は私の少し先輩の牧師でピューリタニズムの研究者。天皇の退位表明を受けて、改革派教理の立場から徹底的に天皇制の問題を厳しく批判している。つまり現天皇は、「憲法を護り」と言明し、「慰霊の旅」などを続けているものの、宮中の実際においては神道儀式を司る祭司王であることを鋭く指摘する。明治以降の歴代天皇や皇族とキリスト教との関係も詳細に検証し、天皇家がクリスチャンになることはあり得ないこと、現天皇夫妻に対する敬意や親しみの感情から、祭司王としての偶像礼拝の問題を曖昧にしてはならないというのだ、9月にキリスト教連合会で同じテーマで講演しなければならないので、参考のために読んだ。

石井桃子『新しいおとな』(河出文庫)6月の信徒講壇での茨木啓子さんのお話を、『羊の群』に掲載するために羊子にテープ起こしをしてもらった。するとこの本を本箱から引っ張り出してきて、石井桃子さんも茨木さんと同じようなことを言っているという。『ノンちゃん雲に乗る』しか読んでいなかったが、著者が自宅で始めた子ども図書館「かつら文庫」と並行して始められた児童文学者・瀬田貞二さん(トールキンの指輪物語の訳者)の児童図書館で茨木さんが読み聞かせをしていたのだから、それは当然でもある。子どもたちが本からどのような受け取り方をするかの詳細な観察に感銘を受ける。

中川李枝子・松居直・他『石井桃子のことば』(新潮社)石井桃子についてほとんど知らなかったので「凄い人だね」と羊子に言うと、今度はこの本を出してくれた。以前にもどこかに書いたが、私自身は児童図書に不案内なのだ。中学生の頃から、いきなり小説を読み出したからだろうが、どこか読書領域に欠落があるのだ。ところが、『熊のプーさん』、『ドリトル先生』、D・ブルーナーの『うさこちゃん』、『ピーター・ラビットの絵本』など、私でも読んだことがあるこれらの児童図書がすべて石井桃子の手掛けたものなのだ。戦後のこの国の児童図書の世界を独力で切り拓いたといっても過言ではない。この本は、石井桃子の生涯とその日常生活を、残された写真や親しい友人たちの証言で浮き彫りにしている。

鶴見俊輔・網野善彦『歴史の話 日本史を問い直す』(朝日文庫)いずれも故人となった碩学の対談集。網野史学に鶴見俊輔が突っ込みを入れ、丁々発止のやり取りが交わされる。縦横無尽の議論の中で、明治の初め甲府で牧師だった山中共古にまで話題が及んでいる。山中共古(本名・山中笑)は、幕臣の子として生まれ、静岡で宣教師マクドナルドから受洗、メソヂスト教会の牧師だった人。民俗学者として知られるが、キリスト教界ではほとんど無名なのだ。御両人の博覧強記ぶりに改めて驚かされる。

畠中恵『なりたい』(新潮文庫)江戸の裕福な薬問屋の御曹司の主人公が、病弱ながら魑魅魍魎の世界に通じていて、その力を借りて難事件を解決する『しゃばけ』シリーズの最近作。ライト・ノベルなので気楽に読める。(戒能信生)

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