2018年8月24日金曜日


牧師の日記から(176)「最近読んだ本の紹介」

中島岳志『保守と大東亜戦争』(集英社新書)戦後の論壇で保守とされる人々、例えば田中美知太郎、竹山道雄、猪木正道、福田恆存、林健太郎といった論客たちが、そろいもそろって戦時下の熱狂的皇道主義に批判的で、大東亜戦争に懐疑的であった事実を掘り起こしている。彼らは、戦後政治を席捲したマルクス主義的世界観を、戦時下の皇道主義と同工異曲のものと断じて、保守的な論陣を張ることになったという。ところが、1990年頃から保守陣営に変質が起こり、「自虐史観批判」とか「大東亜戦争肯定論」が罷り通るようになる。「新しい教科書を作る会」や現在の安倍政権の背後にある「日本会議」へと至る論調である。そして、例えば矢野健太郎は、保守陣営の中でそのような傾向を厳しく批判していた事実が紹介されている。著者は『中村屋のボース』でデビューした気鋭の政治思想研究者だが、これらの保守的論客とされる人々の本来のリベラリズムを再評価し、最近の保守主義者の排外主義や自民族絶対化を批判する。なかなか説得的だが、このリベラル保守と安倍政権との切れ目が容易に見えないようにも思った。

西崎雅夫編『証言集 関東大震災の直後 朝鮮人と日本人』(ちくま文庫)関東大震災の直後に朝鮮人虐殺が続発したことはよく知られている。その事実を、当時の小学生たちの作文や作家、文化人たち、さらに被害に遭った朝鮮人たちや虐殺を実見した市井の人々の証言まで幅広く収集して編集したもの。編者は、私が墨田区にいた頃の市民運動の仲間で、「追悼する会」のメンバー。芥川龍之介や和辻哲郎、寺田虎彦、井伏鱒二、金子光晴ら、膨大な人々のエッセーを集めているので便利。ただ宗教界の証言が皆無であるのが残念ではある。

渡辺京二『幻影の明治 名もなき人々の肖像』(平凡社ライブラリー)従来の歴史研究の通説とは異なる視点から、明治時代を捉えるエッセー集。山田風太郎の一連の明治ものや、士族反乱に加担した豪農たち、自由民権運動に参加した博徒たちの心情を資料から拾っている。そういう観点からの司馬遼太郎の『坂の上の雲』に見られる司馬史観への疑問が呈される。明治期のナショナリズムは健全だったという司馬の視点からは、日露戦争で斃れていった兵士たちの心情は解けないというのだ。また内村鑑三を取り上げて、信の世界は別として、明治の例外者としての内村の位置を読み解こうとする。巻末の神保祐司との対談で、橋川文三との共通点が取り上げられていて考えさせられた。

ゆうきまさみ『究極超人あーる10』(小学館)名作『パトレーバー』を描いた漫画家ゆうきまさみが、1980年代に『少年サンデー』に『究極超人あーる』を連載していた。とてつもなくシュールなナンセンス・マンガで、こんな作品が商業マンガ誌によく掲載されたものだと今さらながら驚く。愛読者の期待に応えて、30年後にその続編を描いたも本作を、羊子が見つけて買ってきてくれた。しかし1980年代のシュールレアリズムは、2018年の少年たちに通じるのだろうか。(戒能信生)

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