2023年9月9日土曜日

 

牧師の日記から(434)「最近読んだ本の紹介」

高倉徹牧師追悼『共に生きる』(新教出版社)1986年に亡くなった高倉徹牧師の追悼集。もちろん出版された直後に目を通しているが(何カ所にも傍線が引かれている)、現在『時の徴』に「高倉徹総幹事日記」を連載している関係で読み直した。改めて教えられ考えさせられるところがたくさんあった。一人の牧師の追悼集という枠を越えて、高倉徹牧師が生涯をかけて取り組んだ日本の教会とその課題について、いくつも示唆されるところがあったのだ。今、日本の教会は、コロナ禍の影響もあって教勢的にも低迷状態にあるが、何よりイエス・キリストの福音に立って、この時代と社会に訴えるべき使信を見失っているのではないだろうか。それは、他でもない私自身の説教の課題でもある。高倉先生がおられたら、頬っぺを膨らまし、顔を真っ赤にして叱咤するのではないか。

農村伝道神学校創立70年記念誌『荒野を拓く』(農村伝道神学校)この類の記念誌は、思い出話しが多く、部外者にはあまり面白くないのが通例だが、この70年誌に収録された文章の多くは一読して深い感銘を受けた。この神学校の卒業生の多くは、地方の農村教会や各地の小規模教会に遣わされることが多い。それぞれの地での各牧師の取り組みと苦闘に眼を開かされる想いで読んだ。私は農村伝道神学校の出身ではなく、講師の一人として関わって来ただけだが、全く知らなかったことをいくつも教えられた。特に農伝に併設されていた東南アジア科が、アジア学院として独立した経緯について、菊池創先生や星野正興さんの証言から初めて教えられるところがあった。また保育科営利農場の廃止に伴う痛みは、今もなお深く残っていることも知らされた。しかしそれにしても、この神学校のこれからの使命と課題について考えさせられる。

明治学院大学基督教学生会編『KAGAWA 20世紀の開拓者』(教文館)橋本茂さんからお借りして目を通した。本書は、賀川豊彦が亡くなった1960年の年末に刊行されている。賀川の生涯とその多面的な活動について、賀川の身近にいた12人の執筆者が証言している。このような出版物が、学生たちによって編纂されたことに驚く。没後間もない時期の企画だったこともあり、その当時の賀川評価がどのようなものであったかを知ることが出来る。厳しく言えば批判的検証よりも偉人賀川の礼讃が多いが、労働組合、農民組合、消費組合への取り組みなど、その多面的な足跡を記録した貴重な資料と言えるだろう。

原武史『線の思考』(新潮文庫)政治思想史研究者である著者が、鉄道ファンである趣味を生かして「鉄道と宗教と天皇」(副題)について書いたエッセイ。驚いたのは、小田急江ノ島線の善光駅の近くにあるカトリックの「聖心の布教姉妹会」と昭和天皇との関わりについて触れていること。昭和天皇が一時期カトリック信仰に近づいたことは知られているが、その具体的な歴史と背景を初めて知ることができた。(戒能信生)

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