2023年11月18日土曜日

 

牧師の日記から(444)「最近読んだ本の紹介」

三宅威仁『八色ヨハネ先生』(文芸社)現役の同志社大学神学部教授が書いた小説。神学部教授を主人公とし、妻と一人娘を突然失う衝撃からどのように再生するかが描かれる。現代の学生たちにも読める仕方で、キリスト教信仰のこと、さらに神義論を判りやすく語る。ある書評で知って読みたいと思っていたところに、向山功さんが持って来て貸してくれた。この神学校はリベラルな学風で知られ、「同志社神学部に行くと信仰をなくす」と喧伝されているが、その現代的な信仰理解と神秘体験の捉え方に感心した。今の学生たちはどのように読むのだろうか。

森まゆみ『暗い時代の人々』(朝日文庫)タウン誌『谷根千』の編集者だった著者が、昭和初期から戦時下を生きたリベラリストたち10人を取り上げる。中でも、初期の女性運動家・山川菊栄や、暗殺された山本宣治(両親がクリスチャンだった)など、名前だけで詳しくは知らなかったので、改めて教えられることが多かった。文化学院の創立者・西村伊作や、大正デモクラシーの旗手・吉野作造についても、新しく示唆されることがいくつもあった。学者の専門的な研究ではなく、暗い時代に「同調圧力に屈することなく自由な精神を貫いた人々」の存在を掘り起こし、判りやすく紹介したお奨めの一冊。

野嶋剛『日本の台湾人』(ちくま文庫)この国で在日台湾人の存在はある意味で隠されている。即席麺を開発した安藤百福などは、「朝ドラ」の主人公にまで取り上げられたのに、台湾出身者だった事実にはほとんど触れられなかった。この文庫は、そのような台湾にルーツをもつ人々を取り上げて、その独特の屈折や複雑な想いを紹介してくれる。経済評論家として活躍したリチャード・クー、歌手のジュディ・オング、作家の陳舜臣、邱永漢などの祖国と日本への想いが興味深い。実は私の父は戦前の一時期、台南メソヂスト教会の牧師だった。そのこともあって、1980年代の台湾民主化運動に多少の関わりをもち、台湾長老教会と日本の教会との関係史をまとめて書物にしたこともある。今また、台湾と中国との軍事的緊張が取り沙汰され、それがこの国の軍備増強に拍車をかけている。台湾とそこに生きる人々への関心を持ち続けたいと願っている。

藤野裕子『民衆暴力 一揆・暴動・虐殺の日本近代』(中公新書)この国では1970年代を最後に、学生や民衆の大規模なデモや暴動は起きなくなっている。それが社会の成熟なのか、それとも活力の停滞なのか議論の分かれるところだろう。しかし近代日本では、明治初期の「新政反対一揆」や「秩父民権暴動」などが続発した。また日露戦争直後の「日比谷焼き討ち事件」で、下町一帯のキリスト教会が被害を受けている。大正期には「米騒動」もあった。それに加えて関東大震災後の朝鮮人・中国人虐殺も、民衆による暴力だった。これらをつないで捉える時、何が見えてくるかが取り上げられていて興味深い。(戒能信生)

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