2023年7月29日土曜日

 

牧師の日記から(428)「最近読んだ本の紹介」

柄谷行人『交換様式入門』(Internet)『世界史の構造』(2010年)で展開した交換様式論の入門編。マルクスは『資本論』を完成させず、晩年は古代社会の研究に没頭したという指摘から始まり、マルクスとエンゲルスの晩年の思想に着目し、いわゆる史的唯物論を越えて世界史の構造を大胆に読み解く。すなわち、A:氏族社会の互酬(贈与と返礼)、B:国家における服従と保護(略取と再配分)、C:世界経済の商品交換(貨幣と商品)というように、「生産」ではなく「交換」を軸に分析する。ウェーバーから始まり、フロイト、ホッブス、モース、カウツキー、ブロッホ等、名だたる難解な思想が縦横に引用され、柄谷行人の交換様式論に統合される。そして国家(B)や資本(C)を止揚する可能性を、D:Xとして、そこに神の力(普遍宗教)と世界共和国のイメージを予示する。正直に言って、著者の思想展開をどこまで精確に理解できているか疑問だが、きわめて刺激的な展開であることは確か。

藤原聖子編『日本人無宗教説』(筑摩選書)「日本人は無宗教」という言説について、幕末期から明治期、さらに大正から昭和、そして現代に至るまで、新聞記事のデータベースをもとに検証している。何人かの研究者による共同研究だが、改めて日本人の宗教性について考えさせられる。なかでも100年前の関東大震災当時の仏教界やその他の宗教事情、あるいは人々の宗教意識が紹介されているのが興味深かった。

富坂キリスト教センター編『日本におけるキリスト教フェミニスト運動史』(新教出版社)この共同研究については、富坂の紀要である程度読んでいたが、その成果が一冊にまとめられてその内容の豊かさに驚かされた。19702020年の時期のキリスト教女性運動を、あらゆる観点から拾い集めて編集されている。その時々の運動を担った先覚者たちの貴重な証言がコラムとして収録されていて、その一人一人の顔を思い浮かべながら読むことができる。詳細な年表もよく工夫されており、貴重な記録になっている。後半には、フェミニスト神学から女性教職の問題、そして従軍慰安婦問題、さらにLGBT問題に至るまで、様々な議論が凝縮されている。共同研究の成果報告としては出色の出来だと思った。

山口里子『マルコ福音書をジックリと読む』(YOBEL)私が責任を負っているクリスチャン・アカデミーの講座としてこの6年間継続して来た山口里子さんのマルコ福音書の講解が書籍化された。それも、いわゆる註解書の書き方ではなく、話し言葉で、講座の際の質問や応答を取り入れて、分かりやすく読みやすく構成されている。主にアメリカの最近の新約聖書学研究を踏まえて、「解放の神学」「フェミニスト神学」「ポストコロニアル神学」「クィア神学」「障礙の神学」「環境の神学」などの視点から大胆に福音書を読み直す。読んでいてハッとさせられたり、これまでの自分の聖書理解や解釈に変更を迫られること必至。(戒能信生)

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