2023年7月15日土曜日

 

牧師の日記から(426)「最近読んだ本の紹介」

村上春樹『街とその不確かな壁』(新潮社)このところ読書日記を中断していたが、それは村上春樹のこの本が理由の一つ。最新作が発売されてすぐに読んだが、なんとも複雑な読後感で紹介できなかったのだ。もちろんいつものように楽しんで読んだのだが、どこかこちらの胸の内にストンと落ちて来ない。この作家の初期の作品は主に若者の恋と生きづらさが取り上げられていた。それが70年以降の政治の季節が去った後の時代の気分を反映して、ある説得力があった。ベストセラー作家になった1990年頃以降、時代や社会の問題を意欲的に取り入れ、それを独特の村上ワールドに展開する小説を書いてきたように思う。本作は、1980年に書いた同名の中編小説(単行本未収録で私は未読)が意に満たず、それを大幅に書き直したという。その持続力には敬服するが、いつものパラレルワールドが今一つリアリティーを感じられなかった。新聞や雑誌の書評などを見ても、多くの評者がどう評価していいのか困惑しているようだ。この作家はこれからどんな方向の小説を書いていくのだろうか。

柄谷行人『ニューアソシエーショニスト宣言』(作品社)この間、柄谷行人の評論を立て続けに読んだ。一つには、柄谷の主張する国家(B)や資本(C)の支配の後に来る交換様式Ⅾのイメージが、普遍宗教・キリスト教と親和性をもつとされるからであり、さらに言えば著者がしきりに聖書やアウグスティヌスを引用しているからだ。それに加えて、柄谷が取り組んで来たNAM(New Associationist Movement)が、賀川豊彦と接点をもつこともある。NAMは、倫理的—経済的な運動であり、かつ非暴力によって資本と国家に対抗する運動として置づけられている。賀川豊彦は、ごく初期から労働組合運動、消費組合運動、そして農民組合運動に積極的に取り組んで来た。それは蹉跌多い歩みだったが、考えて見るとこの国に中間団体を創出しようと奮闘して来たと言える。国家や政府に対して個人の力は無力だとしても、中間勢力の結集によって対峙・抵抗できるとする点で、柄谷の言説と重なるところがある。本書でも、協同組合の活動家が柄谷と熱のこもった議論をしているのが印象的。

平良修『琉球・沖縄の自己決定権 その行使を目指して』(奥羽教区岩手地区社会委員会)岩手地区の「教会と国家セミナー」(私も以前講師として招かれたことがある)での平良修先生の二つの講演を収録したもので、盛岡下ノ橋教会の中原真澄牧師が送って来てくれた。改めて沖縄の歴史と私たちの責任について学ばされた。とりわけ沖縄教区が教団との合同を解消して琉球合同教会として自立すべきとする主張には、共鳴する想いと、それはやはり問題だという感想が交錯する。とりわけ台湾有事に備えて、またまた沖縄に軍備が増強される中で、沖縄からの平和こそが必須とされる。辺野古基地建設の問題にしても、この国の平和主義の原点が問われていると言わざるを得ない。(戒能信生)

0 件のコメント:

コメントを投稿