2023年12月23日土曜日

 

牧師の日記から(449)「最近読んだ本の紹介」

駒込武「植民地主義者とはだれか」(『世界』1月号)ハマスの蜂起に対する報復として、イスラエル軍のガザ地区への激しい攻撃が続いている。この問題について台湾近現代史が専門の駒込さんが『世界』に寄稿した論考に考えさせられた。19301027日、当時植民地として支配していた台湾で、霧社事件が勃発する。抑圧された山地の先住民が蜂起して、134名の日本人(女性や子どもも含む)を殺害した事件だ。これに対し、台湾総督府及び日本軍は、軍用機まで投入して徹底的な報復作戦を展開した。結果として霧社近辺の山地住民の八割近くが殺されたとされている。つまり90年前にガザ戦争と同じジェノサイド報復がこの国にもあったのだ。駒込さんは、ほとんど忘れられている霧社事件とガザ戦争とを結びつけて、「台湾とパレスチナを貫く問い」を私たちに投げかけている。

松田明三郎『詩集 星を動かす少女』(福本書店)教会の印刷室にあったもので、伊藤地塩さんから松野ヤスコさんへのプレゼントという詞書きがある。著者の松田明三郎先生は、東京神学大学の旧訳聖書学の教授だったが、私が入学した時には隠退されていてお会いしたことはない。ただ「星を動かす少女」という詩の作者だということは知っていた。改めて松田先生の詩を感銘深く味読した。例えば「復活」という詩。「枯れたように黒ずんでいた/柿の樹の梢に/点々と踊っている/若い芽の群を見て/どうして復活を/信じないでいられようか」。あるいは「粘土細工」という詩。「粘土を捏ねて/小さな壺を造った/歪んだ不細工なものではあるが/創作のよろこびはある/私は混沌から/宇宙を創造したものの/限りなき歓喜を思った。」他にも、物語詩が興味深かった。

アーシュラ・ル・グイン『赦しへの四つの道』(早川書房)初期の作品『闇の左手』でSF作家としてデビューしたル・グインが、『ゲド戦記』などのファンタジー小説を経て取り組んだエクーメン・シリーズの短編集。未来世界に舞台に借りて、奴隷制やジェンダー差別の問題を鋭く取り上げている。特に本書は、『ゲド戦記』の第4巻『帰還』を経て執筆されているだけに、フェミニズムの視点ヘの転換が注目されるだろう。SF小説の世界に、現代社会への問題提起を持ち込んだ秀作と言える。

沢木耕太郎『旅のつばくろ』(新潮文庫)新幹線のグリーン席に乗ると(最近はシルバーパスを利用して3割引きで利用している)、JRのPR誌を手に取ることがある。そこに沢木耕太郎のエッセーが連載されていて、時折目を通していた。この人のエッセーは、どんな商業雑誌に書いたものでも手を抜かず一定の水準を保っていることに感心していた。それが文庫本になったので目を通した。コロナ禍後、ほとんど旅行しなくなったこともあり、久しぶりに旅をしたいと思いながら読まされた。年を取ると旅をしなくなることを改めて思い知らされた。(戒能信生)

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