2023年12月30日土曜日

 

牧師の日記から(450)「最近読んだ本の紹介」

家永真幸『台湾のアイデンティティー』(文春新書)来年1月に総統選挙が予定され、その結果如何では中国の武力侵攻による「台湾有事?」が危惧される中で刊行された一冊。台湾の複雑な「戦後史」を概観してくれる。特に中国とのねじれの関係を分かりやすく説明し、多様性を尊重する台湾の民主的な社会がどのように形成されて来たのかが解説される。本書でも取り上げられているが、1970年代から80年代にかけて、台湾基督教長老教会が国民党政府から迫害を受けるという事件があった。中国の国連復帰に伴い国際的に孤立した当時の国民党政府は、戒厳令によって民主化運動を徹底的に弾圧する。長老教会は、そのような国民党政府を批判し、民主化を求める声明を公表する。すると、民主化運動家を匿ったという容疑で長老教会総幹事高俊明牧師が逮捕され、軍事法廷で懲役7年の有罪判決がくだされる。長老教会は獄中にある高俊明牧師を総幹事に再任し、政府と緊張関係が続いた。その際、台湾長老教会を支援するために、日本基督教団に台湾関係委員会が組織され、たまたま私がその末端の役割を担うことになる。当時、台湾についての書籍や研究者も少なく、日本と台湾の教会の交流史を一から調べ直して、『台湾長老教会通信』という機関誌を定期的に発行し、資料集を編纂した。やがて台湾長老教会と日本基督教団との協約が改訂され、釈放された高俊明牧師を招いて盛大なイベントを行なったりもした。中国の国連加盟に伴って、中国の教会との交流はNCC(日本キリスト教協議会)が担当し、台湾長老教会との関係は日本基督教団が担うというアクロバティックな対応を編み出すことになる。その関係で二度ほど台湾で行なわれた国際神学会議に参加する経験もした。まだ30歳代で若かったが、教団の外交政策に直接関与する貴重な経験だったことになる。

鈴木敏夫『天才の思考』(文春新書)スタディオ・ジブリのプロデューサー鈴木敏夫が、天才的なアニメ作家高畑勲と宮崎駿との共同作業を振り返りながら、それぞれのジブリ作品が生み出された内輪話や裏話を縦横に語る。おそらく今日本が世界に誇ることが出来る文化的創作物の一つはアニメ作品だろう。その良質なアニメ作品の多くが、スタディオ・ジブリから生み出された。またジブリで養成された優れたアニメーターたちが、今後のアニメ業界を担っていくのだろう。しかしそこには作品の制作だけでなく、広告・宣伝・営業・協賛企業との協力など多面的な役割を担うプロデューサー的な存在が必要ということのようだ。

磯田道史『家康の誤算』(PHP新書)NHK大河ドラマで取り上げられた家康ブームに便乗した一冊。研究者としては一寸書き過ぎの感はあるが、いずれも面白く読んでいる。この新書には、徳川幕府の基本構造と、それを打倒した明治維新政府との比較が試みられていて、興味深い。特に明治6年の地租改正についての著者の分析が興味深かった。(戒能信生)

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