牧師の日記から(539)「最近読んだ本の紹介」
野村真理『ホロコースト後のユダヤ人 約束の土地は何処か』(ちくま学芸文庫)パレスチナ問題と現在進行中のガザの惨劇の遠い背景として、ナチスによるユダヤ人迫害とイスラエル建国(1948年)との関連を究明する歴史研究。ホロコーストを生き延びたユダヤ人たちは、解放後行き場を失う。彼ら彼女たちは、いわゆる難民(Refugee)とは異なり、帰る場所も行く当てもない存在として「ユダヤ人DP」(Displace Persons)と呼ばれる。問題は、この人々の移住先としてアメリカを初め多くの国が必ずしも積極的に受け入れなかったこと。結果としてその多くが、シオニストたちの呼びかけでイスラエルに移住することになる。先住民たるパレスチナ人たちの住む土地に無理やり割り込む形で。したがって現在のパレスチナ問題の根本的な責任は、ホロコーストをようやく生き延びた人々を受け容れなかった世界にあるというのが著者の主要な論点。学術書なので読みにくいところもあるが、初めて知ることも多く考えさせられた。
谷川俊太郎+和田誠『ナンセンス・カタログ』(ちくま文庫)この本をどう紹介したらいいだろうか。詩人の谷川俊太郎が、ある言葉を選んで(例えば「ラジオ」とか「切株」、「マッチ」という具合に順不同、一切の脈絡なしに)、それについてのショート・エッセイを書き、それに和田誠がイラストをつけている。なんということもない内容なのだが、寝床で読むのに最適。繰り返し読んでいるが、3、4篇目を通すと眠くなるという仕掛けになっているのが不思議。寝る前に再読すると、睡眠導入剤の代わりになる。不眠症気味の人は一度試してみる価値あり!
仁藤敦史『加耶/任那』(中公新書)日本史の教科書で「任那の日本府」の存在を教えられた。しかし学生時代に在日の友人から、韓国では任那日本府は存在しないと教えていると聞いて驚いたことがある。すなわち日本と韓国の教科書が、古代朝鮮に倭の拠点があったかどうかでも正反対の記述をしていることになる。それは現在でも両国の歴史研究の対立点でもあるという。本書は、古代朝鮮史の研究者がこの難問に分け入って、現時点での学術的な見解を、公平に、言わば両論併記の形で紹介している。共通教科書もなかなか難しいようだ。(戒能信生)