牧師の日記から(561)「最近読んだ本の紹介」
柄谷行人『私の謎 柄谷行人回想録』(講談社)昨年『朝日新聞』に連載された柄谷行人に対するインタビューを編集し直し、周辺取材を加えてまとめたもの。文芸評論家であり、左翼思想家であり、かつ哲学者でもある著者の多面的な歩みを、本人の回想で詳細に追っている。結果として、難解をもって知られる柄谷ワールドの格好の入門書になっているのだ。『世界史の構造』あたりから、独特の交換様式によってマルクスの資本論を読み解き、同時に世界の歴史と構造を見事に分析するその手法が注目されている。私にとっては、普遍宗教としてのキリスト教に着目し、旧約聖書や新約聖書についての斬新な解釈が展開されている部分が刺激的で、なまなかな神学者よりもはるかにインサイトに満ちている。今も神学者の福嶋揚さんたちと『定本
力と交換様式』を少しずつ読んでいるが、この人の探求から学ぶことは多い。
加藤喜之『福音派』(中公新書)、藤本龍児『宗教のアメリカ』(岩波新書)、森本あんり・渡辺靖『キリスト教ナショナリズム』(朝日新書)最近の書店でこの類の新刊書が何冊も並んでいる。第二次トランプ政権の成立とそれを支えるキリスト教福音派の実態について解説したものが多い。従来のアメリカ政治の解説書にはキリスト教的背景について触れたものがほとんどなかったからだろぅ。しかしどれを読んでみても、正直に言っていまいちピンと来ない。それは、これらの博学な著者たちが、基本的にトランプ政権とそれを支持する福音派の陣営に対して批判的な立場から解説しているからではないか。それは私も同じなのだが、心からトランプを歓迎し忠誠を誓っている人たちの心情がどうも伝わってこないのだ。アメリカ社会の深刻な分断の実態は、宗教的な側面からだけでは捉え切れないのではないだろうか。
梅津順一『ナショナリズムとキリスト教』(新教出版社)著者から贈呈されて何とか読了。明治・大正・昭和の時代を生き抜いた稀代のジャーナリスト徳富蘇峰の歩みを、福沢諭吉や内村鑑三とも比較しながら丹念に追跡している。熊本洋学校でキリスト教に触れ、同志社で新島襄の薫陶を受けた蘇峰が、当初は「平民主義」を唱えていたにもかかわらず、大日本帝国の躍進?と共に次第に「力の福音」に転じ、遂には「大東亜戦争」を鼓吹する立場に至ったその軌跡を丁寧に追っている。しかし率直に言って、あまり面白くなかった。(戒能信生)