牧師の日記から(494)「最近読んだ本の紹介」
チョ・ナムジョン『82年生まれ、キム・ジョン』(ちくま文庫)2016年に発行された本書は、韓国で100万部を超えるベストセラーになったという。現代韓国の女性が置かれた状況を、幼児からの育てられ方、小中高での学校生活、さらにその後の大学受験、キャンパス生活の実際、就職、そして結婚、出産、育児などの具体的な例を、ルポルタージュ的な手法で分りやすく小説化している。儒教の影響が社会全般に強固に残っているため、男尊女卑の慣習が日本によりも根強い現状が活写される。私自身も、韓国に何人か友人がいるが、その女性に対する接し方に疑問を抱くこともあった。1980年代に日韓教会青年交流のチャプレンとして訪韓したとき、協議会の食事の後片付けを専ら女子学生たちにさせて、男子学生たちはその隣で駄弁っているだけなのに抗議して、日本から参加した男子学生たちで食器洗いをしたら、韓国側の女性たちから大いに感謝されたことが印象に残っている。日本にも女性差別やミソジニー(女嫌い)が頑強に残っているが、ここまで酷くはないと感じさせられた。しかしその韓国の方が、女性大統領にしても、女性国会議員の数にしても、女性活躍度指数では、今や日本を遙かに陵駕している現実をどう考えるべきだろうか。
最相葉月『母の最終講義』(ミシマ社)この欄でも紹介したことがあるが、著者はこの国で圧倒的な少数者であるキリスト者たちの存在を『証し 日本のキリスト者』という大きな本で取り上げた作家。そのエッセー集というので目を通した。母上の介護の経験や、コロナ禍での様々な出会いなど多岐にわたるテーマが達意の文章で描かれる。特に30年にわたる母上の介護の様々な局面と経過が印象に残った。認知症になった母親が次々に起こすトラブルを、「母の最終講義が始まった」と受け止める姿勢に共感を覚えた。私自身も、父と母の最期を看取った時、死に方を私たちに教えてくれていると痛感したからだ。
藤原マキ『私の絵日記』(ちくま文庫)若い頃、つげ義春の漫画を愛読していた。独特の世界観と特異な絵に惹かれていたのだ。そのつげ漫画に時折夫人が登場する。つげ夫人が唐十郎の主催していた状況劇場の女優藤原マキだということは、なんとなく知っていた。しかし彼女がその子育て等の日常生活を絵日記に描いていたことは知らなかった。その絵日記が、不思議なことにつげ義春と共通する雰囲気があって面白い。まるで小学生の描く絵日記のように稚拙なのだが、大まじめに描いているのに好感がもてる。息子の正助の育児日記でもあり、夫のつげ義春の病気(周期的なうつ病)との付き合い方が淡々と描かれて興味深い。疲れたときに何だか癒やされる一冊。(戒能信生)
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