2019年4月13日土曜日


牧師の日記から(209)「最近読んだ本の紹介」

山我哲雄『激しく考え、やさしく語る 私の履歴書』(日経プレミアシリーズ)宗教学者として名高い山我哲雄さんが、『日本経済新聞』の名物コラム「私の履歴書」に連載したものに、編集者のインタビューを加えて編集されている。親鸞研究や仏教各派だけではなく、宗教学のあらゆる分野について幅広く発言してきた著者のこれまでの蹉跌多い歩みを初めて知ることが出来た。10年ほど前、賀川豊彦記念講演会に山我さんを招いたことがある。すると山我さんは、その準備として関東大震災の救援活動に賀川が取り組んだ現場を見たいと言われて、わざわざ東駒形教会まで訪ねてこられたことがある。80歳を超えてのその姿勢に何より感銘を受けた。その講演で、山我さんは賀川の「神に溶け込む」という表現に着目して、賀川の宗教性の特質を語られた。これを賀川の神秘主義と結びつけて受け取る研究者もいるが、単なる神秘主義からは賀川のような激しく幅広い社会活動は生れないのではないかと私は考えているのだが・・・。

川端裕人『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)科学ジャーナリストの著者が、人類進化学者海部洋介に徹底して取材し、またインドネシアのジャワ原人やフローレス原人の発掘現場を訪ねて、人類進化学の現在を分かりやすく紹介したもの。ホモサピエンス出現の以前、アジアには北京原人、ジャワ原人、そしてフローレス原人、さらに台湾沖から最近発見された澎湖原人?など多様な原人が生きていたという。特にインドネシアのフローレス原人は身長1メートル前後のホビットだったという。当初、子どもの化石だと考えられていたが、その後の研究で、隔絶した島嶼で食糧不足などから小型化したものだという仮説が生れる。同じ地層で発見されたアジア象の先祖化石が体長15メートルほどに矮小化しているからだ。現在の人類進化学は、発掘による化石の発見だけでなく、その詳細な比較分析、さらにDNA鑑定など用いて、ネアンデルタール系の原人が交雑して多様化していった軌跡を示してくれるという。全く未知の世界を覗き込むような面白さがあった。

上林順一郎『なみだ流したその後で 断想と追想と』(キリスト新聞社)一昨年北支区交換講壇で千代田教会に来られた江古田教会の上林順一郎牧師が、この春隠退された。それを期に、先生の説教、随想、講演などを集めたもの。上林先生は、これまでも何冊も説教集を出していて、いずれも一読の価値がある。特筆すべきはその導入の見事さ、引用される書物の多様さと巧みさ、そしてユーモアと笑い、何より聖書のメッセージが聞く者に残る語り口にいつも感心させられてきた。この最後の?説教集も同じで、さらに磨きがかかった感じがする。上林先生は早稲田教会在任中に、甲状腺癌の手術で入院していたことがある。その時の教会員宛の「病中書簡」「病床雑記」も収録されていて、こちらも偶々入院中だったこともあり、共感しながら感銘をもって読まされた。(戒能信生)

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