「牧師の日記から」(548)「最近読んだ本の紹介」
千野栄一『プラハの古本屋』(中公文庫)著者は日本におけるスラブ語学の権威。「スラブ語」という言い方を初めて聞いたのは、かつて研究者仲間だった佐藤優(元・外交官の評論家)が「フロマートカ(ロマドカ)の神学を理解するにはスラブ語が必須だ」と力説したからだった。スラブ語は東ヨーロッパ全域で用いられている言語体系の総称で、著者によれば「現在使われているスラブ語は、東スラブがロシア語、ウクライナ語、白ロシア語の三つ、南スラブがブルガリア語、マケドニア語、セルビア語、クロアチア語、スロベニア語の五つ、西スラブがポーランド語、チェコ語、スロバキア語、上ソルブ語、下ソルブ語の五つで、計一三言語」とされる。つまり第一次大戦から戦間期を挟んで第二次大戦、そして戦後から現在に至るまで絶えず紛争や内戦が繰り返されて来た地域一帯の言語なのだ。したがってプラハの古本屋には、その時々の政治体制によって展観できる書籍が厳しく制限されて来た。しかしプラハは戦災に遭っていないので、古い家々に中世以来の膨大な稀覯書が眠っており、政治体制が変わる度にそれが放出されるという。つまり古書店を通してプラハの街の歴史を辿るエッセー集となっている。言語学や文学関係の古書に著者の関心は集中しており、キリスト教関係、特にヤン・フスやコメンスキー、フロマートカなどへの言及がないのは残念。しかしこの国にもこのような読者人にして書籍の収集家がいたのかと感じ入った。
岡本亮輔『キリスト教入門の系譜』(中公新書)この国において圧倒的なマイノリティーであるキリスト教について、数多く書かれてきた「入門書」を通してその歴史と特質を読み解こうとする意欲作。それがまことによくできていて感心することしきり。プロテスタンとだけでなくカトリックについても目配りされていて、私も知らない人物や文献について教えられることが多かった。著者は筑波大学出身の宗教学者で、その観点から見ると日本におけるキリスト教はカトリックも含めて「衰退期」に入っているとされる。私が現在『福音と世界』に連頼している「人物・日本キリスト教史」と問題意識や視点が重なるところがあり、とても興味深く読まされた。(戒能信生)
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