2020年11月28日土曜日

 

牧師の日記から(294

武田徹『現代日本を読む』(中公新書)本書は、1970年に始まった大宅壮一ノンフィクション賞受賞作を中心に、この国でノンフィクションとして書かれた主要な作品を紹介し、その問題点や課題を分析している。石牟礼道子の『苦海浄土』から始まり、イザヤ・ベンダサンの『日本人とユダヤ人』、本多勝一の『アラビア遊牧民』、沢木耕太郎の『テロルの決算』、藤原新也の『東京漂流』などが俎上に上げられる。本書に紹介されている作品のほとんどに私自身が目を通していることに驚いた。ということは、現代社会を描くのに、小説や詩だけではなく、このようなノンフィクションに分類される表現が必要とされているということだろうか。フェイクニュースが横行する現在、改めてノンフィクションの中身が問われている。

君塚直隆『悪党たちの大英国帝国』(新潮撰書)イギリス史には疎いのだが、ヘンリー八世から始まり、クロムウェル、ウィリアム三世、ジョージ三世、パーマストン、ロイド・ジョージ、チャーチルといったいずれも毀誉褒貶する人物を取り上げて紹介してくれる。イギリスには定評ある『国民伝記事典』(DNB)があり、それが増補改訂され、さらに新版(NDNB)も刊行されているという。本書はその伝統に倣って、これらの人物を通してイギリス近代史を辿っている。実は、最近刊行された『日本キリスト教歴史人名事典』の編纂に関わり、事典項目の提案をし、その宣伝にも一役買わされている。私の日本キリスト教史の授業も、人物に焦点を合わせて、言わば人物史の形で構成されているので、関心をもって読まされた。

上垣勝『テゼ共同体と出会って』(サンパウロ社)先日千代田教会の礼拝に出席された上垣勝牧師は、神学校時代の同級生で、この春まで板橋大山教会の牧師だった。隠退後、長年親しんできたテゼ共同体についての文章をまとめて、本書を出版された。テゼは、フランスのブルゴーニュ地方にある教派を越えた共同体で、全世界から人々が集まり、祈りと讃美を共にする小さな共同体である。その創立者であり指導者だったブラザー・ロジェの言葉を中心に、この共同体の不思議な魅力が紹介されていて、一気に読了した。このような沈黙と豊かな聖想の時と場所を、私自身が必要としていることを痛感させられる。

高野秀行『辺境メシ』(文春文庫)早稲田大学探検部出身のこの著者の『謎のアジア納豆』を読んで面白かったので、その続編ともいうべき本書を楽しみながら読んだ。アジアやアフリカ、南米や中東など、世界各地の辺境を実際に踏破して、現地の人々の食べ物を実食して来た経験を紹介している。「ヤバそうだから食べてみた」というキャッチ・フレーズのごとく、動物では猿から始まって、鰐、ラクダ、鼠、蛇に到るまで、魚類では鯰、鮫、ピラニア、さらに芋虫、蟻、蛭などの虫類まで、世界中の珍奇な食べ物が満載。私自身は直子さんの手料理に慣されごくごく普通の食生活なので、呆れながら、しかし一種の羨望をもって読まされた。(戒能信生)

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