2021年8月7日土曜日

 

牧師の日記から(329)「最近読んだ本の紹介」

新宿伝道所『ディスポラのあゆみ 新宿集会の60年』(自費出版)千代田教会に合流した新宿伝道所60年の歩みを詳細に伝える記録。賀川豊彦によって創立され、1970年前後の紛争期を経て伝道所の施設を追われ、以降50年近くにわたって会堂を持たない新宿集会の歩みが始まる。この時期、各地で既成の教会から分かれて独自の集会をもったグループがいくつもあった。しかしその多くは、その後の問題意識の拡散やメンバーの高齢化などによって解散か消滅している。しかし新宿伝道所は、堀光男牧師を中心に数名のメンバーが、様々な会場を探し求めながら粘り強く集会を続けて来た。その綿密な記録がここに収録されている。高齢になった堀牧師の体調を考慮して、2019年に新宿伝道所は解散手続きを取り、メンバー3名が千代田教会に転入会する。その「聖書と人間を考える会」は、千代田教会のプログラムとして現在も継続されている。この稀有な記録が、千代田教会の歩みをも豊かにしてくれることを願っている。

関田寛雄『目はかすまず、気力は失せず』(新教出版社)著者から贈呈されて一読した。表題は、120歳で死んだモーセの晩年についての表現(申命記347節)だが、今年で94歳を迎える関田先生の神学教師、伝道者としての歩みをよく現わしている。本書には、様々な機会における先生の講演や論考、そして説教が収録されている。いずれもご自身の経験を踏まえて、実に分かりやすい言葉で語りかけられている。そもそも千代田教会への私の赴任の道を開いてくださったのは関田先生だった。前任地の東駒形教会を辞任し、地方の小さな教会での最後の働き場所を希望して、関田先生に紹介をお願いしていたのだ。ところが東京の真ん中にある千代田教会に赴任せよと先生から言われた。「都会の教会はもう・・・」と逡巡する私に、「東京のど真ん中にある過疎のような教会だから」と背中を押してくださったのだった。千代田教会を紹介した責任を感じられるのか、教会から週報等をお送りする度に、一言感想を記したハガキを送ってくださる。いつもその短いお便りに私自身が励まされている。その意味で関田寛雄先生は牧師の牧師でもあるのだ。週3回人工透析を受けつつ、しかも最近肝硬変で体調が悪いと聞くので、案じているのだが…。

原俊彦、他「特集 サピエンス減少」(『世界』8月号)少子化現象はこの国だけではなく、世界中で進行している。お隣りの韓国や中国でも、それは日本以上に急激に進んでいるという。私は、歴史人口学に関心をもって、人口の推移から歴史を捉える手法に学んで来た。しかしいま世界的に進行している人口減少は、これまでの社会システムの根本的な転換を求めているように思う。そして人口減少時代における宗教の役割と使命について考えさせられている。『世界』のこの特集は、その意味で具体的なデータが満載で参考になるが、どの論者も将来への希望を語っていないのが印象的だった。そこに教会の使命があると思うのだが。(戒能信生)

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