2022年5月28日土曜日

 

牧師の日記から(368)「最近読んだ本の紹介」

文芸別冊『茨木のり子』(河出書房新社)詩人・茨木のり子が亡くなって、もう16年が経つ。私はその没後、この人の詩を読み始めた。時折、疲れた時、辛いことがあった時など、この人の詩を取り出して読む。例えば「自分の感受性くらい/自分で守れ/ばかものよ」とか、「この失敗にもかかわらず/私もまた生きてゆかねばならない/なぜかは知らず/生きている以上、生きものの味方として」、あるいは「人間には/行方不明の時間が必要です/なぜかは分らないけれど/そんな風に囁くものがあるのです」、「あらゆる仕事/すべてのいい仕事の核には/震える弱いアンテナが隠されている きっと」といった短い言葉に、ハッとさせられ、慰められ励まされてきた。この「凜とした」「倚りかからない」詩人について、谷川俊太郎や工藤直子、澤知恵など親しかった友人たちの想い出に触れて、本当に稀有な詩人だったのだと今さらながら思う。

中島健二『出家』(PHPエディターズグループ)未知の著者から寄贈されて目を通し、感銘を受けた。著者は私のZoom講座『日本キリスト教史を読む』の受講者の一人だそうで、認知症を専門とする医科大学の名誉教授とか。ご自分の臨死体験?をきっかけに、ご自身の歩んで来た医師としての歩みをもとにして初めて書いた小説だという。東北の僻地の町の診療所で独り亡くなった医師を主人公として、その人物の戦争体験と戦後の苦闘と、医師としての生涯、そしてその家族の歩みが物語られる。途中で北陸のドイツ人神父が出てくるが、その変な日本語によるキリスト教理解には考えさせられ、学ばされるものがあった。頂いたお便りに「私は愚直に『人間社会の基軸は愛』を訴え続けようと決意しています」と書かれていた。

中北浩爾『日本共産党 革命を夢見た100年』(中公新書)日本共産党が生れて100年になるという。その100年の歩みを、政治学研究者の視点から描いた新書。この党については、それを批判する数多の書籍がある。また当然のことながら共産党の立場からの擁護や弁明もある。しかし本書は、そのいずれにも偏らず、極力客観的にこの党の100年の歩みを辿る。読む側としては、日本共産党を軸にして戦前戦後の100年の政治史を顧みることになる。私の知人の中にも、真面目で誠実な党員が何人もおり、その人々を想い起こしながら読まされた。最後には、党員の高齢化と組織の弱体化の中で、今後のこの党の在り方についての提言をしている。

藤沢周平『獄医立花登手控え①②③④』(文春文庫)この間、ジンマシンで辛い時間をうっちゃるために、この作家の時代小説を読み返した。中でも若い獄医を主人公とするこのシリーズは、時間を忘れて味読することができる。世にエンターテイメント小説は数あるが、その中で再読に耐えるものは少ないだろう。しかし不思議なことに、この作家の小説は何度も繰り返し読むことができる。一つにはその端正な文体と、読者を励まし楽しませようとする真摯な執筆姿勢によるのだろうか。(戒能信生)

0 件のコメント:

コメントを投稿