2022年5月7日土曜日

 

牧師の日記から(365)「最近読んだ本の紹介」

竹本修三、他『脱原発の必然性とエネルギー転換の可能性』(新教出版社)クリスチャン・アカデミーではこの間原子力発電の問題に継続して取り組んで来た。本書は2019年に行われたターグンクの記録。私が特に注意をひかれたのは、2011年東電福島第二原子力発電所の爆発事故を受けて、ドイツがいち早くエネルギー政策を転換し、核エネルギー廃絶の方針を打ち出したこと。講師の木村護郎クリストフが、エネルギー転換に至るドイツ社会の状況を詳しく報告している。早くからキリスト教会でこの問題が取り上げられ、世論形成がなされてきたこと、17人の諮問委員の中に4人の神学者や教会関係者が加えられた事情なども知ることが出来た。さらに考えさせられたのは、ドイツ社会の節電意識。住宅の廊下や階段の電灯が、一定時間が過ぎると消されるシステムが一般に普及しているという。しかし日本では、真夜中もこうこうと電灯がつけられる場合が多い。先ずそのあたりから意識を変えていかなくてはならないのだろう。

上垣勝『海鳥たちの遺言 世界と神を黙想する』(日本基督教団出版局)友人の上垣牧師から頂いて目を通した。上垣さんは、私の神学校時代の同級生で、各地の教会で働き、最後は北支区の板橋大山教会に仕え、一昨年春に隠退された。この説教集は板橋大山教会時代のものからセレクトして編集されているが、読んで私自身が慰められ、また教えられることが多かった。中でも、子どもたちへのメッセージと、それに続いて同じ聖書個所から大人たちへの説教が語られ、両者が結びあわされていることに感銘を受けた。多くの場合、説教題に副題が付けられていて、その言葉がメッセージの内容を現していることにも注目させられる。例えば「主の祈り―今日のアリバイ」、「美しい献げもの―人生の一回性こそ宝」等々。

ジャネット・アブー=ルゴド『ヨーロッパ覇権以前 上下』(岩波現代文庫)16世紀に近代世界システムが成立したとするウォーラステインのグローバル・ヒストリー論を踏まえて、ヨーロッパが覇権を握る以前の13世紀に、既に地域間の交易と共存を基盤とする世界システムの萌芽が成立したとする壮大な仮説。中国、インド洋、アラブ世界、そしてヨーロッパなどを結ぶ陸海の交易路が敷かれ、文化交流と交易がおこなわれたという。それは覇権なき共存として21世紀以降の世界のイメージを喚起させる。

谷川俊太郎『対談・人生相談』(朝日文庫)詩人・谷川俊太郎と、父・徹三を初め、野上弥生子など親しい友人・知人たちとの対談集。中でも鶴見俊輔に詩人が本気で人生相談をしているのが面白い。鶴見が賀川豊彦に触れ、その文体が粗雑で推敲されていないことを指摘した上で、「賀川の文学作品には、今までの物書きの洗練された文体では言い尽くせなかった何かがあった」としている。賀川の小説類のほとんどは超多忙の中での口述筆記なので文体としてはお粗末だが、彼には学歴もない庶民に訴える言葉の力があったと指摘しているのが興味深かった。(戒能信生)

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