2022年11月20日日曜日

 

牧師の日記から(393)『最近読んだ本の紹介』

宮田光雄『良き力に不思議に守られて』(新教出版社)橋本茂さんを通して宮田先生から贈られて一読。比較的最近の講演や説教が収録されているが、宮田先生独特の分かりやすい文章に改めて感銘を受ける。90歳を超えて依然として旺盛な研究意欲を持続し、人々に語りかける姿勢に学ばされた。1400円の小さな書籍で、プレゼントに適している。

谷川俊太郎・正津勉『鶴見俊輔 詩を語る』(作品社)詩人の谷川俊太郎と正津勉を相手に、80歳の鶴見俊輔が自分の生涯と詩との関りを自由に話している。その闊達さがいかにも鶴見さんらしくて、一気に読まされた。そもそも『鶴見俊輔全詩集』が刊行されているなんて知らなかった。鶴見さんは詩人でもあったんだと新しい発見。例えば、「出鱈目の鱈目の鱈を干しておいて 夜ごと夜ごとに ひとつ食うかな」という訳の分からない詩には、鶴見の南方での戦争体験が詠み込まれているというのだ。特に晩年の鶴見の『もうろく帳』に書き付けた断片的な言葉が詩になっていると詩人たちは指摘している。哲学者、あるいは思想家としての鶴見ではなく、ごく自由で自然な鶴見俊輔像に触れることができる一冊。

橋爪大三郎『アメリカの教会』(光文社新書)キリスト教国アメリカの歴史を、植民地時代の各州の政教分離への格闘の歴史に分け入って詳細に論じている。神学者や宗教学者ではなく、社会学者としての著者のアプローチにが独特。「世俗政府と、政府と特別な関係のない諸教会」の組み合わせにこそ、アメリカ合衆国の特徴があり、それはアメリカの影響を受けて成立した日本の憲法と制度的には共通すると指摘する。「曲がりなりにも、自由と人権を基調とする今の世界秩序を維持するために、日本もできることをすること、隠居したアメリカの代わりに、この秩序を支えるつっかえ棒になること。この覚悟と用意が必要」というのが著者の主張。

並木浩一・奥泉光『旧約聖書がわかる本』(河出新書)小説家の奥泉さんは、かつて並木浩一門下の旧約学徒だった。その奥泉さんが、並木先生に聞く形で、旧約聖書のエッセンスを引き出してくれる。対話形式で旧約各書の解説が語られ、しかもテキストを引用して、二人の対話が重ねられるので読みやすい。ただあまりにも分かりやすく語られているので、もっと深堀してほしい部分にはちょっと物足りない感じもする。

青戸教会『創立70周年記念誌』(私家版)青戸教会の高橋克樹牧師から送って来た。青戸教会を創立した中山真多良牧師は、賀川豊彦に影響を受けた人で、戦後の下町伝道では欠かせない人。小さな教会だが、そこから何人もの牧師を輩出しているのだ。戦後すぐの時期、上野のガード下のホームレスへの路傍伝道で、中山牧師は「いつくしみ深き」のメロディに乗せて、独特の替え歌を歌ったという。「母ぎみにまさる 友や世にある 生命の春にも 老いの秋にも 優しく労り いとしみたまふ 母ぎみにまさる 友や世にある」いかにも中山先生らしい歌詞ではある。(戒能信生)

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