2022年12月17日土曜日

 

牧師の日記から(397)「最近読んだ本の紹介」

鹿島茂『神田神保町書肆街考』(ちくま文庫)ちくま書房のPR誌『ちくま』に70回にわたって連載された神保町界隈の歴史についての論考。文庫本でも700頁を越える浩瀚なもので、読み切るのに時間を要する。幕末期この地に設置されたの蕃書調所(後の洋書調所)から始まり、それが維新政府による開成所、さらに外国語学校へと至る経緯を初めて知った。これが東京大学ヘとつながるのだが、内村鑑三や新渡戸稲造、徳富蘇峰たちが在籍した東京英語学校との関連も確認することができた。つまり神田から一ツ橋のあたりは、この国の高等教育の発祥地だったのだ。官立大学が本郷等に移転した後、同じ地域に明治、中央、法政、日本、専修などの私立学校が続々と設立され、その周囲に古書店が生まれたという。さらに、外国人のための専門学校も開校され、一時、神保町は中国人留学生の溜まり場になり、そこから維新號を初めとする中華料理店も出来たというのだ。各古書店の歴史については、反町重雄の『古書肆の思い出』が縦横に引用され、戦前から戦後にかけて200を越える古書店が蝟集したこのエリアの歴史と特質が詳細に紹介される。世界でも古書店がこれほど一箇所に集中するの稀という。しかしその神保町が1970年前後から、各大学の郊外移転に伴って空洞化し、由緒ある古書店が次々に店を閉じ、スキー用品店などのメッカになって今日に至る。もともとフランス文学者である著者は、しかし新しい文化の発信地としての神田神保町の再生を願って、自ら新しく書店を開いたという。一度覗きに行ってみることにしよう。

青野太潮『どう読むか、聖書の難解な箇所』(YOBEL)著者から寄贈されて目を通した。前著『どう読むか新約聖書』に続いて、青野「十字架の神学」が、分りやすく展開される。新約聖書の難解とされる箇所や誤解されているテキストを選んで、聖書学の観点から問題を解きほぐし、最後は「無条件で徹底的な神の愛とゆるしの宣言」としてのイエスの福音と「十字架の逆接」で締め括られる。実に丁寧で説得的な展開なのだが、一方でこのような聖書理解から歴史が形成されるのかしらという小さな疑問を抱く。

宮田光雄『われ反抗す、ゆえにわれら在り カミュ「ペスト」を読む』(岩波ブックレット)これも著者から贈られて読んだ。新型コロナウィルス感染症が蔓延する少し以前に書かれているが、カミュの『ペスト』が注目されるにつれて、このブックレットも多くの人に読まれたという。宮田先生は、東北大学の法学部教授の傍ら、仙台の自宅に学生寮を建てて読書指導をしたことで知られる。この小さな書物でも、無神論者として理解されてきたカミュの『ペスト』を再読し、その「反抗においては、人間は他人のなかへ、自己を超越させる」という言葉を取り上げ、ボンヘッファーの獄中書翰「神という作業仮説なしに、この世に生かされる」と並べて、両者の差異と共通点を説き明かしている。(戒能信生)

 

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