2023年1月27日金曜日

 

牧師の日記から(402)「最近読んだ本の紹介」

柳田邦男『犠牲 サクリファイス』(文春文庫)講座『キリスト教と文学』の課題図書になったので、改めて文庫本を買ってきた精読した。神経症を病む次男が自死を計り、臨死状態になって11日後に亡くなるまでのドキュメントを父親の視点から描いている。当時「脳死」を死と認めるかどうかの議論の最中だったこともあり、著者はそこに「二人称の死」という視点を提示する。つまり「私の死」「第三者の死」とは区別して、自分の家族、恋人、親しい友人などの突然の死をどう受け止めるかという視点。著者自身の痛切な体験を通して、丁寧なグリーフ・ケアの必要が説かれる。愛する者を失って茫然自失の状態にある家族に寄り添う医療の必要が説得的に展開される。さらに、著者は息子の残した日記を手掛かりに植物状態の息子と徹底した対話を重ね、息子が骨髄移植ドナーの登録をしていたことを確認し、最終的に家族とともに腎臓の提供を申し出る。愛する者の死を、本人の意志に基づいて、さらに新しい命に引き継ごうという決断である。まさにノン・フィクションの極致で、同じような経験をした人々への慰めと励ましに満ちている。同時に、このドキュメントを書くことを通して、著者自身が再生していく物語にもなっている。

猪谷千香『小さなまちの奇跡の図書館』(ちくまプリマー新書)この間、地域図書館は激変を余儀なくされている。先進図書館とされる市立浦安図書館を何度か見学し、現在の図書館の果すべき役割や課題について教えられてきた。そこに、1990年代から指定管理制度が導入され、経費節減を目的とした極端な合理化が図られていく。そんな中で、本書で紹介されるのは、鹿児島の指宿図書館の意欲的な取り組み。小さなNPO法人が受託して、市民と協力して新しい地域図書館として再生していく過程が描かれる。指定管理制度に疑問をもっていたが、このようなレア・ケースがあることを初めて知った。やはり図書館を担うのは司書たちの人間性ではないか。

金子勝・児玉龍彦『現代カタストロフ論』(岩波新書)経済学者と分子生物学者の共著。ウィルスは変異を繰り返す内に、致死的な変異が増えて自滅するという。100年前のスペイン・インフルエンザによるパンデミックがそうだったと説明されてきた。しかし現在のウィルス学では、次々とカタストロフ(崩壊)を繰り返しながら、複数の亜種が現れて新しい進化を遂げるという。コロナ・ウィルスがまさにそうで、現在もオミクロン株の様々な亜種が現れている。ノーベル化学賞を受賞したアイゲンのエラー・カタストロフ理論だという。この理論を経済学に応用して、破局に近づいている日本経済の問題点を指摘している。しかし本書の中で最も驚いたのは、大阪府の新型コロナ・ウィルスによる死者が、100万人あたり700名と、全国平均の倍に達し断然突出している事実。その背景には、維新の会の府政方針によって公的医療機関が統廃合されて弱体化されたと指摘されている。この事実がマスコミに報道されないのは何故か?(戒能信生)

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