牧師の日記から(563)「最近読んだ本の紹介」
太田春夫『回想録 豊かな出会いに支えられて』(私家版)橋本茂さん編集の『羊の群』に4回にわたって連載された太田先生の手記をもとに、さらに東日本大震災以降の支援活動などを書き加えて、澄子夫人の編集で刊行された。一読して、太田春夫という稀有な牧師の足跡に改めて感銘を深くした。確かにここに「一人の牧師の奮闘記」が率直に記されている。それは、容易に強勢の拡大が望めない地方の教会の現実の中で、幼児施設とその働きを手がかりに地域に根差す宣教の未来を先き取りするものだった。千代田教会宛てに10冊ほど送られて来たのだが、もっと多くの人に読んでほしいと考え追加注文した。残念ながら、フォントが小さすぎて高齢者には読みにくいが、是非多くの人に味読していただきたい。
アーシュラ・K・ル・グイン『赦しの四つの道』(ハヤカワ文庫)3年前に新書版で買って一読し、この欄で紹介したのだが、そのことを忘れていて文庫版を買って再読した。驚いたことに以前読んだことをほとんど覚えていない(認知症の進行!)。初期の名作『闇の左手』を初めとするハイニッシュ・ユニバース・シリーズに連なる作品だが、著者晩年の1995年に書かれている。つまりファンタジー『ゲド戦記』の第4巻以降を執筆した後に、再度SF小説に取り組んだ作品なのだ。それは、ル・グインの新たな挑戦を意味する。SFの世界を借りて、先進文明から派遣された外交官が、後進地域の植民地主義や奴隷制、男性優位意識を乗り越えるためにいかなる助言ができるのかが描かれている。読んでいて、明治初期に来日した宣教師たちのことを連想した。この国の封建制や身分意識、さらにジェンダー観の打破に取り組んだ宣教師たちの労苦を想像した。
斎藤幸平『人新生の黙示録』(集英社)『人新生の資本論』でデビューした斎藤幸平が、コロナ禍を経て、さらに進行する気候変動やテクノ資本主義による富の寡占、そして世界規模の戦争の拡大といった現実に、いかにして抗し得るのか大胆な提案をする。それが「暗黒社会主義」の提唱なのだ。著者は語る「かつてのような近代主義の夢やそれに付随するライフスタイルや価値観を捨てなければならない。20世紀の経済成長、消費主義、個人主義を、いつまでも理想として求め続ける必要はない。別の形の自由を発明すべき時なのだ」と。この本をめぐって、哲学者の高橋哲哉と斎藤幸平が対談をしている(「左派の逆襲」『世界』7月号)。この間のリベラル左派の衰退の中で「ようやく大きなビジョンが提示された」と高橋は高く評価する。そして護憲運動が対米依存と深くつながっている現実から長らく目を逸らしてきたリベラル左翼の矛盾を指摘し、むしろ積極的な平和主義の立場からの改憲を志向すべきだと主張する。リベラリズムの世界的な退潮の中で、この終末的な世界にいかに希望を見出せるのか、果たして斎藤幸平の終末論が新しいビジョンにつながるだろうか?(戒能信生)