2026年5月2日土曜日

 

牧師の日記から(557)「最近読んだ本の紹介」

国分功一郎『天皇への敗北』(新潮新書)「日本国憲法」の改定が高市政権によっていよいよ政治日程に上って来た。そんななかで、スピノザ研究で知られる若手?哲学者が、民主主義と憲法の問題に果敢に取り組んだ講演録。民主主義と立憲主義の関係について、憲法学者・樋口陽一の説明「民主主義とは民衆が権力を作る政治体制のこと、立憲主義とはいかなる権力も制限される原理のこと」という引用から始まる。つまり民主主義と言っても、多数派が何をやってもいいわけではない。そこに立憲主義の重要さがあるのだが、第二次安倍政権以降、この立憲主義が脅かされ続けて来たと指摘する。そしてそのような解釈改憲の流れに敢然と抵抗したのが、平成天皇・皇后であった事実を取り上げ、憲法学者や護憲勢力の戦後民主主義確立への努力も「天皇に敗北」したのではないかと挑戦的に問う。さらに加藤典洋の『敗戦後論』や、中野重治の『五勺の酒』などを取り上げて、改めて戦争責任と天皇制について問題提起している。私自身が考えて来たことと触れ合う部分があって精読した。

阿刀田高『90歳、男の一人暮らし』(新潮選書)高齢作家たちが執筆した書籍が書店に並ぶ。身につまされながら読んだ。超高齢化社会の反映ではあるが、キリスト教界でも80歳を越えた著者から立て続けに著書が送られて来て、礼状を書くのに往生している。並木浩一『アモス書を読もう』、上林純一郎『80歳から創めるキリスト教』、上田光正『バルト神学への道しるべ』。みんな老いて盛んだなあーと呆れていたら、私自身も78歳で『福音と世界』に連載しているのだから、人のことは言えない。

山本昭宏『彼女たちの「戦後」』(岩波新書)昨年、雑誌『世界』に連載されていたのを断片的に読んでいたが、新書にまとめられたので再読。黒柳徹子、土井たか子、大橋鎮子、鴨井洋子、田辺聖子、山崎豊子、角野栄子、ゴーマン美智子、吉田ルイ子、平野レミ、中山千夏、吉永小百合の12人を取り上げ、彼女たちの歩みを通して戦後民主主義を論じる。確かに彼女たちは、おおむねリベラルで、この国の戦後社会を象徴していると言えるかもしれない。男性の視点から語られる従来の戦後論ではなく、女性の生き辛さから見えてくる戦後社会が語られる。戦後民主主義を、政治制度としてではなく、「文化としての民主主義」として捉えようとしているのだ。戦後のキリスト教界の歩みを女性の視点で捉え直すと、そこに何が見えてくるだろうかと考えさせられながら、興味深く読んだ。(戒能信生)