2019年2月2日土曜日


牧師の日記から(199)「最近読んだ本の紹介」

橋爪大三郎・大澤真幸『アメリカ』(河出新書)気鋭の社会学者二人のアメリカ論についての対談集。トランプ大統領に象徴される最近のアメリカ合衆国について、特にキリスト教とプラグマティズムを軸にして議論している。最近のアメリカ論の多くは、A.トクヴィルの『アメリカのデモクラシー』とR.ホーフスタッターの『アメリカの反知性主義』を軸にして論じられることが多いが、この対談もその両者を踏まえた森本あんりさんの『アメリカ・キリスト教史』をもとにして議論を展開している。ただその教派理解について、R.二ーバーの”The Social Sources of Denominationalism”の視点が欠けているように思うのだが…。

フェルデイナント・v・シーラッハ『禁忌』(創元社推理文庫)ドイツの実務法律家(刑事事件の弁護士)だった著者が、このところ立て続けに話題のミステリーを発表している。翻訳からも感じ取れる彫琢された文体で、ドイツ社会のある側面を見事に描き出すが、この作品の評価は分かれるようだ。

沢木耕太郎『銀河を渡る』(新潮社)著者の最近のエッセーを集めたもの。この間の様々な作品の舞台裏が描かれていて興味深く読んだ。そう言えば、沢木さんが、私の恩師に当たる井上良雄先生を取材していた時期がある。聖書を一緒に読んでほしいと言われて、しばらく聖書研究を続けたこともあったそうだ。それで井上先生から沢木さんについて聞かれて、私が理解している範囲で答えたことがある。「書かれますよ」と忠告して、結局その取材は中断したのだが、この人の関心の置き所に興味を持った。井上先生が何冊か沢木さんの本を読んでの感想が「まるでサイダーか何かを飲んだような感じで、スカッとはするのだが…」というもので、言い得て妙ではある。抑制の効いた沢木さんの文体とその清潔さが魅力で私は愛読しているのだが……。

菊池良和『吃音の世界』(光文社新書)自身が少年時代から吃音に悩み、その経験から医師として吃音治療の専門家になった著者の歩みと、吃音の原因についての現在の医学的な理解や、治療の最前線を分かりやすくまとめている。医師は、その病気の専門家であっても、病者ではない場合が圧倒的に多い。その点で、吃音者の悩みに徹底して寄り添おうとする姿勢に感銘を受けた。実は、私自身も少年の頃、軽い吃音があったこともあって、関心をもって読まされた。

保坂正康『昭和の怪物 七つの謎』(講談社現代新書)昭和史の研究者の著者が、東條英機、石原莞爾、瀬島隆三といった昭和史の怪物たちについて、その周辺へのインタビューをもとに興味深い事実をいくつも掘り起こしている。遺族や側近の証言を注意深く史料と突き合わせて批判的に聞き取り、それぞれの正当化や自己弁護を鋭く暴いている。例えば、戦後伊藤忠商事の役員を務め、中曽根臨調の中心にいた瀬島隆三にも直接取材して、東京裁判でソ連側の証人として証言している事実、さらに内閣情報局は瀬島をソ連のアセット(資産)と見ていた事実などが紹介されている。(戒能信生)

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