2019年2月9日土曜日


牧師の日記から(200)「最近読んだ本の紹介」

R.E.ルーベンスタイン『中世の覚醒 アリストテレス再発見から知の革命へ』(ちくま学術文庫)文庫本で600ページ近い大著。アウグスティヌスが新プラトン主義に基づいてキリスト教教理の基礎を築いた後、アリストテレスの哲学は西ヨーロッパでは全く忘れられてしまった。それが、12世紀のスペインのレコンキスタでアラビア語に翻訳されたアリストテレスの著作が発見される。しかもイブン・ルシュドやマイモニデスなど、イスラムやユダヤ学者たちによる詳細な注解と共に。このアリストテレスの再発見が、その後の西ヨーロッパのキリスト教と社会に与えた影響は甚大であった。すなわちアウグスティヌス以来、「信仰と理性」の関係について何より信仰が優先するとされていたのが、アリストテレス哲学に学んだスコラ学者たちによって統合が図られ、さらにカトリック教会の統制を乗り越えて、信仰から理性が解き放たれることになる。その推移を、アベラール、ボナベントゥラ、トマス・アクィナス、そしてオッカムへと跡付ける。このところは、例えばゴンサレスの『キリスト教思想史』で読んでも難解でしかもかなり退屈な神学思想史である。ところがルーベンスタインは、それをきわめて説得的で読みやすく説明してくれる。驚くべき筆力と言える。イスラム社会は、アリストテレスの遺産を13世紀以降その信仰とは別枠にして無視してしまったために近代に乗り遅れて停滞していく。それに対して、西ヨーロッパはカトリック教会との壮絶な葛藤(異端審問による弾圧)を経ながらも、アリストテレスを媒介にして科学の進展を容認することにつながった。その先に、ガリレイが、ダーウィンが、そしてニュートンが現れたのだという。本書の原題は『アリストテレスの子どもたち キリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒はいかにして古代の知恵を発見し、暗黒の時代を照らしたか』。スコラ哲学の歴史は、敬して遠ざけていたが、本書によってその大筋を理解することが出来た。この間、病院での診察や検査で長時間待たされる合間に目を通した。

市川裕『ユダヤ人とユダヤ教』(岩波新書)ユダヤ人とユダヤ教の歴史については、いくつも大著があるが、この新書は、その歴史、信仰、学問、社会の観点から、要点を簡明に解説してくれる大変便利な入門書。

増川宏一『江戸の目明し』(平凡社新書)テレビ・ドラマの時代劇に登場する「江戸の目明し」の実態について、江戸期の古文書から読み解いてくれる。奉行所の与力や同心の数は限られており、とても大都市江戸の犯罪の取り締まりに手が回らず、元犯罪者を手先にしたのが「目明し」なのだという。したがってその素行も悪く、様々な非行を繰り返していたという。

クリストファー・パオリーニ『エラゴン123』(静山社)1983年生まれのアメリカの若者が書いたファンタジー。これが意外に面白かった。ドラゴンとそれを乗りこなす少年の成長物語で、世界中で累計3500万部も読まれているという。続きは、入院している時に読むことにしよう。(戒能信生)

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