2019年12月28日土曜日


牧師の日記から(246)「最近読んだ本の紹介」

大澤真幸編『戦後思想の到達点 柄谷行人・見田宗介が自身を語る』(NHK出版)柄谷行人と見田宗介は、存命の思想家の中で、私が最も信頼している研究者と言える。それぞれの著作をかなり以前から読んできたが、この二人を交差して考えたことはなかった。それぞれ全く独自の世界を構築しているからだ。本書は、この二人の思想的巨人に大澤真幸が率直に切り込んで、それぞれの思索の足跡を解説してくれる。二人の著作はいずれもかなり難解で、正確に読み取れているか覚束ないところがあるのだが、編者である大沢真幸のインタビューによってそれぞれの問題意識の推移を辿ることができる。宗教、あるいはキリスト教の未来について、私が読み取った点を紹介してみよう。

柄谷行人の交換論は、カール・マルクスの『資本論』を再解釈して、人類史を次のように読み解く。すなわち「互酬の時代A=ネーション」を解体して、「略奪と再配分の時代B=国家」、「貨幣と商品の交換の時代C=資本」と整理する。そしてさらに未来社会を「交換D」として、新たな互酬の世界を構想しなければならないとする。そしてその「交換D」の世界を支える思想として、普遍宗教を想定している。その意味で柄谷の場合は、宗教に対する一定の評価と期待が見られるのだ。(柄谷行人『交換様式とマルクスその可能性の中心』(文学界12月号)

一方で社会学者の見田宗介は、特にその最後の部分で、これからの社会がどうなるかを大胆に予測している。現代社会は1970年前後で人類史的な人口転換に達したという。すなわち人類の爆発的な増殖期が収束し、安定した平衡期へと移行して来ていると分析する。この急激な人口増が始まった時期を、見田はカール・ヤスパースを援用して紀元0年前後の「軸の時代Ⅰ」と見る。それは都市化と貨幣経済によって始まったが、その「軸の時代Ⅰ」に対応してギリシア哲学やキリスト教、仏教などの普遍宗教が始まったと見る。そしてこの急激な人口増が、資源を消費し尽くして既に臨界点に達し、これ以降の人類は滅亡への道を辿るのか、それとも安定した平衡期へと軟着陸するかの岐路に立たされていると見る。そしてこの新しい「軸の時代Ⅱ」の思想や宗教のあり方も変容を迫られるというのだ。それは「天国や地獄というものが存在するという信仰に依存することなしに、この有限性としての生を歓びに充実した生として生きることを支える思想でなければならない」と見田は大胆に予測する。つまり宗教の役割についてかなり否定的な観方を提示しているのだ。

実際に先進諸国では宗教(キリスト教)の位置は大きく変容し、日本でも宗教は実質的に衰退の一途を辿っている。そこに環境問題が切迫している。「生態破壊、環境破滅の脅威こそ、私たちの時代の最も重要な宗教的な課題ではないか。最早自らのメンバーの拡大に固執することではない。どれほど多くの宗教が、未だに生命そのものの複合的なサバイバルに専念するのではなく、自分自身の組織的サバイバルに専念していることだろうか。(L.Boff)(戒能信生)

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