2020年3月15日日曜日


牧師の日記から(257)「最近読んだ本の紹介」

樋口陽一『リベラル・デモクラシーの現在』(岩波新書)リベラリズムが退潮し、代わってネオ・リベラリズムやイリベラルが台頭している世界の状況を、憲法学の視点から解説してくれる。原理主義やポピュラリズム、そして自国第一主義が興隆を極め、リベラリズムは旗色が悪い。しかしこの国の憲法の基本思想であるリベラル・デモクラシーにこそ立ち帰らねばならないと力説する。その点で、社会学者日高六郎の戦時下の思想に注目して紹介している部分に感銘を受けた。そう言えば、E・フロムの『自由からの逃走』の訳者が日高六郎だった。

NHK放送文化研究所編『現代日本人の意識調査 第9版』(NHKブックス)NHK1973年から5年ごとに継続している意識調査の最新版。「日本宗教史」の講義の準備をする中でこの調査の重要性に気づき、それ以来毎回購入して目を通している。特に信仰や宗教に関する意識変化に注目してきたが、若者の宗教離れが進む一方で、奇跡やお札を信じる層が増えているのが興味深い。今回の調査で際立った特徴は、結婚観の趨勢。1973年の調査開始時に、既に結婚を当然視する人が45%に対し、結婚しなくてもよいと答えた人が51%だった。その比率がその後徐々に拡がって来て、最新の2018年では27%対68%になっている。つまり結婚しなくてもよいと考える人が、全体の7割近くになっているのだ。これはこの国の家族観に決定的な影響を与えているだろう。

宗教情報リサーチセンター編『日本における外来宗教の広がり 21世紀の展開を中心に』先般、日本宗教史の集中講義の一環で、学生たちと一緒に杉並の国際宗教研究所を訪ねた。その時、旧知のセンター長井上順孝さんから頂いた。世界のグローバル化に伴って、日本社会にも多数の外国人が居住するようになっている。その在日外国人の宗教事情を追跡・分析している。フィリピンやブラジルなどカトリック国からの移住者が多いので、カトリック教会はそれに対応しようとしているが、決して十分ではないと指摘されていて、考えさせられた。私たちの教会も、近隣に住む外国人に開かれた教会にならねばならない。
小野正弘『オノマトペ 擬音語・擬態語の世界』(角川ソフィア文庫)日本語の特徴の一つに擬音語・擬態語の豊かさがある。例えば、漫画の世界では、銃声が「バギューン!」などと表現され、それはもはや画の一部となっている。このオノマトペが、古代の日本語にも既にあったというのだ。古事記の冒頭、イザナギとイザナミが天の浮橋で沼を「こおろこおろ」とかき回すと、塩が滴り落ちて日本列島ができたという「国造り神話」。この「こおろこおろ」がオノマトペだという。万葉仮名で「許々哀々呂々」と記されているので、それが判明する。文字をもたなかった古代の日本人は、中国から伝来した漢字を用いて、自分たちの言語を文字化した。その際、万葉仮名で当時の発音を記録したので、古代に用いられていたオノマトペが文字として保存されたというのだ。オノマトペを通して、日本語の成り立ちにまで遡ることができて面白かった。(戒能信生)

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